“デジタルトランスフォーメーション”や“デジタル変革”と訳されるDXが注目を集めていますが、デジタルをどう活用すれば顧客との関係を強化できるでしょうか。本連載では、Salesforceを活用する中小企業の成功体験をもとに、選ばれる企業になるために知っておくべきデジタル活用術を紹介します。
今回は、DXの基本と中小企業を取り巻く課題の整理、どのようにDXを進めるべきかを考察します。
デジタル変革への機運の高まり
最初に、DXとは何か、について説明しましょう。Salesforceでは、DXを次のように定義しています。
”DXとは、単にデジタル化するだけでなく、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出し、柔軟に改変すること”
つまり、デジタル化を通してビジネスモデル、業務のあり方、組織のあり方、組織の文化、風土を抜本的に改革し、ビジネスの成長、競争力強化につなげることがDXといえます。
新型コロナウイルス感染症流行に伴い、従業員の安全性を鑑みて会社への通勤からリモートワーク中心の働き方へと変更した企業が多くありました。リモートワークで業務が継続できたことで、事業の維持、従業員の雇用を守ることができたのです。
対面のコミュニケーションもオンラインに代替できれば、顧客との関係を維持し続けられます。飲食、観光、旅行業などを除き、コロナ禍においてもリモートワークでおおむね変わらずに事業を継続できている傾向があります。Salesforceの既存ユーザー含め、すでにDXを実現している(あるいは実現しつつある)企業と言えるでしょう。今回のような特殊な環境が、企業のデジタル化と働き方改革を推進させたことになります。
リモートワークが長期化するにつれて、オンラインでの従業員教育に力を入れるようになった企業もあります。以前は対面での従業員同士のコミュニケーションが日常的で、場合によっては従業員全員が一堂に会する機会も設けていたでしょう。これらの機会が大幅に減少したため、従業員のエンゲージメントを高めるオンラインでの教育やコミュニケーションがより重要になっているからです。
一方で、コロナ禍でも出社せざるを得ない企業もありました。現場での作業が必要な企業に限らず、同業他社がリモートワークに切り替えているのに、それが実現できないケースもあったのです。緊急事態宣言で、DX化ができている企業、できていない企業が明るみに出ました。
中小企業が直面している課題
国内の中小企業の数は357.8万社。全事業者358万のうち、実に99.7%が中小企業となっています。日本経済を支える中小企業ですが、コロナ以前より多くの課題を抱えており、特に顕著な課題として次の3つがあげられます。
- 一人の従業員がいくつもの役割を兼任している
- 業務が属人化し、情報が共有されていない
- IT部門がなく、戦略的投資がしにくい
3つの課題は連動しています。リソースが少ないので一人が複数の業務を兼任せざるを得ない。リソースが少ないので業務の標準化に手が回らず属人化し、しかもそれが複数の業務に渡る。リソースが少ないのでIT部門に人材を割けず、IT化が進まない――。これらはすべて生産性が上がらないという問題に直結します。
生産性が低いということは、成果を出すために長時間かかるということです。残業、休日出勤など長時間労働になりがちで、有給が取得できない、産休や育休などの制度を利用できないなど、労働環境が悪くなり、新しい人材採用ができない。新しい人材が入らないと、新しいアイデアが生まれにくい。イノベーションが進まず、業績が低下する――。こういった悪循環に陥っている企業も少なくありません。