デジタル化に対する関心が一層高まり、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)への実践的な取り組みを開始しています。DXへの取り組みは「DXの実践」と「DXの環境整備」の2つに分けることができますが、今回は具体的な取り組みである「DXの実践」の実施状況を、調査データをもとに紹介します。
DXの実践状況に関する調査の概要
本連載の記事「『DXの実践』で注目すべき4つの領域-企業が社会・産業のデジタル化に対応するには」では、注目すべきDXの潮流としては、「社会・産業のデジタル化」「顧客との関係のデジタル化」「組織運営・働き方のデジタル化」「デジタル化に対応したビジネス創造」の4つの方向性を示しました。
ITRでは、2020年6月に国内企業におけるDXに向けた環境整備と実践的取り組みの状況を確認するために「デジタルトランスフォーメーション(DX)成熟度調査」を実施しました。これは、ITRの独自パネルを対象としたインターネット調査で、従業員数1000人以上の国内企業で、自社のIT戦略ならびにデジタル革新に関与している課長以上の役職者を対象として281件の有効回答を得ています。今回はその中から、「DXの実践」部分に焦点を当て、4つの領域における国内企業の実施状況を紹介します。
社会・産業のデジタル化に対応した施策
企業が社会・産業のデジタル化に対応するため、デジタル技術やデータを活用して従来の事業や業務を大きく変革することを「ビジネストランスフォーメーション」と呼びます。事業領域を大きく変えたり、新規事業を起こしたりするわけではないものの、商品やサービスの作り方や届け方を変える、社内や対外的な業務を革新的に高度化する、これまで実現できなかった品質やスピードを可能にすることがビジネストランスフォーメーションに当たります。
例えば、熟練の技術を動画にして配信し、全拠点の現場からタブレット端末で参照できるようにする、工場において1秒間に何万個という製品の全てを目視で確認することができなかったような検品作業を、人工知能(AI)を活用した画像認識によって全品検査を可能にするといった応用分野が考えられます。
代表的な施策を10個挙げてそれらに対する実施状況を確認しましたが、他の分野と比較して全般的にやや低い実施状況にとどまりました。10個の施策の中では、「業務現場(店舗、工場、作業場など)でのモバイルデバイスの利用」が最も高い実施率でした(図1)。店舗や工場などの業務現場では、モバイルデバイスの活用はある程度進んできていますが、IoTやAIの本格的活用はまだ一部の企業にとどまっている状況です。
新型コロナウイルス感染症の影響によって、移動の制限や接触の回避が注目されたことで、遠隔監視や自動制御・自動修復などの重要性への認識が高まり、今後取り組みが活発化することが期待されます。
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