独特の構造で形成される建設現場--ITで効率化図る鹿島建設の挑戦 - (page 2)

阿久津良和

2020-11-25 07:15

数千カ所におよぶ建具工事の進捗を管理

 建築物の開口部に設ける開閉機能を持った仕切りを指す“建具”だが、鹿田氏は「ここでは単純に扉や窓などを取り付ける工事として認識してほしい。建具工事は内装工事と同じく複数の工程があり、建具工事が終わらない部屋は内装工事に入れないといった特性もある。また、内装工事と同様に工程別に協力企業が存在し、場合によっては数千カ所におよぶ建具工事の進捗を管理しなければならない」と、建具工事が抱える課題を説明する。

 同社横浜支店の現場所長から、前述の内装工事進捗管理システムを応用できないかとの提案を受けて、「建具施工進捗管理システム」が誕生した。同じように工事が完了したエリア名や建具番号、管理工程名を協力企業がスマートフォンで入力した結果が、Power Automate経由でSharePoint上の進捗管理表に反映される。さらに墨出しや研り(はつり)といった完了結果をPower BI Proで可視化する仕組みも追加した。

 建具施工進捗管理システムは試験運用中とのことから定量的な効果は示さなかったが、鹿田氏は「工事の着手がタイムリーに行えることで、工程数と建具の数に応じて作業量の向上が見込めると同時に、工事進捗を図面で可視化することで、さらに効果が期待できる」と述べた。

運搬申込書の情報転記が多く発生

 建設業で多くの協力企業が携わる工程が建築資材の運搬である。調整役は運搬スケジュールの作成や各協力企業へ資材運搬指示を出し、協力企業は車両を用いた資材運搬に努めなければならない。さらに運搬役は荷役自動車で資材を移動させ、重機で資材を揚重(ようじゅう)するといった多くの作業が発生する。

 鹿島建設が協力企業にヒアリングしたところ、運搬申込書の情報転記が多く発生していたという。この部分をデジタル化したのが「建築資材運搬システム」だ。

 協力企業が使用する予約アプリケーションはスマートフォンから運搬予約の申し込みと予約済み情報の確認が可能。調整役が利用するアプリケーションは調整や複製、作業終了後の実績入力に加えて、その日の運搬予定を確認する機能や現場の作業遅延を踏まえて、予約を日単位で動かす機能を備える。

 また、現場の運搬業務従事者も、アプリケーションで揚重や搬入ゲートを選択することで、運搬スケジュールを確認し、図面上で資材の配置先を示すという。これらはPower Platformに加えて、Azure Logic AppsやAzure SQLも利用している。

調整役が利用する建設資材運搬システムの概要 調整役が利用する建設資材運搬システムの概要
※クリックすると拡大画像が見られます

 今後のスケジュールとして「今年8月まで建築資材運搬システムを複数の現場で運用してきたが、データ表示速度など課題が残り」(鹿田氏)、2020年中にシステム改良を予定している。また、2021年1月から前述した大型複合施設に現場に一連のシステム導入、2021年4月以降は横浜支店管下の全現場に導入予定だ。

 暗黙知については資材運搬ルートをデータ化し、蓄積したデータを機械学習にかけることで、資材物量などの情報をもとに必要な人数や所要時間などを提案する機能の実装も予定している。

 Power Platformの利点として鹿田氏は「サーバーレスであり、プログラミング言語の高度な知識を必要としない」と説明、内装工事進捗管理システムと建具施工進捗管理システムは事務系社員2人で開発できたという。

 鹿田氏は多要素認証によるセキュリティ担保や多様なOSやウェブブラウザーで利用できる点も評価しつつ、「協力企業にMicrosoft Teamsを広げ、現場内コミュニケーションを活性化と開発したシステムへのアクセス利便性を向上させる」と述べた。

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