本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏と、Coltデータセンターサービス バイスプレジデント アジア・太平洋地域・日本代表の杉原博茂氏の発言を紹介する。
「小規模事業者にとって必要なのは“電子化”ではなく“デジタル化”だ」
(弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏)
弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏
弥生は先頃、小規模事業者向けを中心に、法令改正への対応や業務効率化を促進するデスクトップアプリケーション「弥生21シリーズ」の提供を開始すると発表した。併せて9月に提供を開始した会計事務所の記帳代行業務を効率化する「記帳代行支援サービス」についても説明した。
岡本氏の冒頭の発言はオンラインでの発表会見で、小規模事業者を取り巻く状況と課題について説明した中で、「電子化」と「デジタル化」の違いについて強調したものである。
同氏は、「小規模事業者の業務効率化については、今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって課題が一層明確になるとともに、これから取り組みが加速していくだろう」との見方を述べ、図1を示しながら、その内容について説明した。
図1:小規模事業者の業務効率化に向けた課題と取り組み(出典:弥生)
同氏によると、課題としては、従前からの「労働力人口の減少」とともに、コロナ禍で「接触機会の低減」によるさまざまな変化が浮き彫りになった。それらに向けた業務効率化の取り組みとしては、事業者自身による「ITの活用による業務効率化」および「競争力向上のための業務効率化」、行政主導による「大規模な法令改正による業務電子化」および「デジタル庁の創設」を挙げた。
では、そうした状況を踏まえて、小規模事業者は今後、業務効率化をどのように進めていけばよいのか。その端的な答えが冒頭の発言である。岡本氏は図2を示しながら、次のように説明した。
図2:電子化とデジタル化(出典:弥生)
「小規模事業者においては特に、これまでの業務は紙でのやりとりを前提として、その一部について“電子化”、すなわち“Digitization(デジタイゼーション)”を進めてきた。しかし、ここにきて紙文化を続けていた行政からも効率の観点で、提出時の電子データ化が求めれるようになってきた。さらに、今後はデジタル化を前提として業務の在り方を見直していくべきだ。こちらは“Digitalization(デジタライゼーション)”。紙を電子化するだけでなく、業務の在り方を見直し、効率化を図っていくべきというものだ」
この「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」は、デジタルを論じる上でよく話題に上る言葉の意味の違いである。説明としてよく出てくるのは、デジタイゼーションが「アナログからデジタルへの移行」なのに対し、デジタライゼーションは「データ活用によるプロセス全般のデジタル化」という解釈だ。
岡本氏の説明も基本的には同じ意味である。ただ、さらに全ての小規模事業者に理解してもらおうと「電子化とデジタル化」と表現し、その重要性を分かりやすく訴求しているわけだ。この姿勢に、長年にわたって小規模事業者を支援してきた弥生の真骨頂を見た気がした。