(1)在宅勤務やテレワークの実態の把握から始める
まずは新型コロナウイルス感染症などの社会情勢に関連して、自社で在宅勤務やテレワークがどれくらい浸透しているか、今後どういった計画となっているか、から見てみましょう。
「貴社の6月の在宅勤務/テレワーク率ってどれくらいですか」
「半年後、1年後の在宅勤務/テレワーク率ってどれくらいを想定していますか」
この問いに対して、正確な回答が可能でしょうか? 給与担当者としては、正確な数値までは回答できないケースが多いのではないでしょうか。
通常、働く場所が変わっても勤務日数は変わらないため、在宅でも出社でも給与支給には影響がありません。
したがって、在宅勤務やテレワークの日数集計に必要な情報が勤怠情報に入っていないか、入っていても、機械的に集計可能な状態となっていないということは十分考えられます。
その一方で通勤交通費の支給には在宅率が大きく影響します。
「在宅勤務やテレワークが多い=実費支給にすればコストメリットがある」ということが実費支給に切り替える最大の理由であるはずですが、もし、在宅勤務やテレワーク率を正しく把握していなかったり、今後の在宅勤務やテレワーク率の計画を立てていなければ、想定したほどのコストメリットが出なかったり、場合によってはむしろ支給額が増えた、ということが起こりえます。
よって、きちんとコストメリットを出すためにも、まずは在宅勤務やテレワークの現状と今後の計画の把握を行うことから始める必要があります。
(2)定期割引とコストを比較検討
在宅勤務やテレワーク率の把握や今後の在宅率の見通しがついたら、次に、実費支給への切り替えによる交通費の削減額をシミュレーションしてみましょう。
例えば、現在支給している各従業員に関して次のような通勤交通費関連のデータがあれば、過去の定期代支給実績に対して、同期間を実費支給(片道運賃×2×期間で想定される出社日数)した場合の差額を計算できるはずです。
- 通勤経路
- 支給した定期代
- 定期代区間の片道運賃
- 想定される出社日数
削減効果をシミュレーションするにあたって、ポイントとなるのはJRの区間です。
例えば、「東京~横浜」「京都~大阪」間の6カ月定期と6カ月の実費額を比較した場合、月の出社日数が12日以上であれば、実費の方が支給額を上回ってしまいます。もし、6月のように、平日が22日あるような月であれば45%以上、平日が少ない月でも30%以上の在宅勤務もしくはテレワークが必要です。半年先、1年先もこの割合の維持が可能でしょうか?
また、出社日数10日の場合の定期代との差額も、月に直すと1経路当たり2000円程です。
制度変更や運用変更に伴う対応工数と比べて、費用対効果は発生するでしょうか。
実費支給への切り替えによって、本当にコストメリットを出すことができるか、まずは在宅勤務やテレワーク率を把握した上で、具体的な削減額を出すことから始めてみてください。この時点で、思ったほどの削減額が算出されないのであれば、実費支給化実施の見送りをお勧めします。
続く後編では、ポイントの3つ目以降について解説いたします。
- 伊藤裕之(いとう・ひろゆき)
- Works Human Intelligence カスタマーサクセス事業本部 シニアマネージャー
- 2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとして人事システム導入と保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、1100社を超えるユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信している