在宅勤務に伴う交通費支給の見直し(3)システムにあわせた制度設計を(前編)

伊藤裕之 (Works Human Intelligence)

2020-12-18 06:30

 前回は、通勤定期券の廃止に伴う交通費の実費支給への切り替えにあたり、事前に整理すべき点や運用面の検討事項についてお伝えしました。

 実際のところ、通勤交通費の支給は人事給与担当者にとって非常に負荷の高い業務になります。

 規模の大きい企業であれば、通勤交通費専門の担当者がいるケースや、Works Human Intelligenceの調査では、1経路当たりのチェック時間が平均で15分というデータもあります。

 そんな中、新型コロナウイルス感染症予防に伴う在宅勤務やテレワークの浸透により、多くの企業で交通費支給に関する見直しが行われています。このような動きに合わせて鉄道事業会社側も対応を迫られており、JR東日本をはじめとした複数の鉄道会社で時間帯別運賃制度を検討しています。

 では、この制度が正式に導入された場合、各企業の交通費支給制度はどう対応することになるのでしょうか。本記事では、ウィズコロナでの通勤交通費制度に関して、運用面・システム設計面での課題を踏まえた制度設計のポイントを解説します。重要となるのは「システムにあわせた制度設計が通勤手当においては有用」ということです。

そもそも通勤手当の支給は業務負荷が大きい

 通勤手当業務の負荷の高さには、さまざまな要因があります。

 その最大の要因は、多くの企業において通勤手当支給の根拠となる経路が「最も経済的かつ合理的」というあいまいな基準で決定されていること、と考えます(図1内部要因参照)。

図1
図1

 これは所得税法上非課税となる条件として定義されているものであり、結果として多くの企業で支給条件として準拠しています。ただ、「経済的・合理的」の判断はきわめてあいまいであり、最終的には担当者の判断に委ねられているのが現状です。

 担当者にとってゆかりのない地域の通勤経路を、正しく判断することは決して容易ではありません。人事として合理的だと決定した経路が、従業員にとって合理的ではないことは日常茶飯事と言えるでしょう。

 結果的に一定の従業員サービスレベルを維持しようとした場合、

  • 正しい経路や最寄り駅を決定しているかどうかのチェック工数の増大
  • 人事判断に承服できない従業員への説明と、事情を踏まえた上でのイレギュラーな経路管理、交通費支給管理による業務効率の悪化
  • イレギュラー対応のため、システム化や運用改善による解決が困難

という影響が起こります(図1内部要因参照)。

 したがって、まずは制度設計を見直して運用負荷の軽減を図るということが、本質的な解決につながります。

 それでは、制度設計を見直していくうえではどのような点を抑えておけばよいのでしょうか。2つの前提について解説します。

前提(1):通勤手当の支給は各企業の裁量範囲である

 今回の実費支給への切り替えにあたりこのような問い合わせがあります。

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