最低限のソースコードを書くだけ、あるいは全くコードを書かずにシステムを開発する手法のローコード/ノーコード開発に注目が集まりつつある。
システムの設計情報を定義すると、設計情報をもとにソースコードを生成したり、もしくは設計情報に基づいてシステムを実行環境で動作したりでき、ソースコードを生成する工数を限りなく少なく、またはゼロにできる。開発ツールやプラットフォームとして提供されており、2020年現在は多くの製品やサービスを活用できるようになっている。
本連載では、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)やレガシー化が進む既存システムの刷新問題いわゆる「2025年の崖」など、エンジニアやIT人材、デジタル人材不足を補う解決策の一つとなるローコード開発の効果と推進について5回にわたり解説する。
今、ローコード開発に注目が集まる背景
ミック経済研究所によると、日本でのローコード開発の市場規模は、2018年度で2143億円、2023年度で4560億円まで拡大するという。また、Gartnerは2024年までに世界のアプリ開発の65%以上がローコードで開発されると予測している。
注目が集まっている背景を、需要と供給の観点から見てみよう。
需要の観点
- IT活用領域の急速な拡大
- ITスキルを持たない人材によるシステム開発の登場
- ビジネス環境の急激な変化に応じた短納期開発の要請
テクノロジーの進化による新規ビジネスの創出やリモートワークなどの働き方の変化など、企業がITを活用したい領域は拡大した。それによりIT人材不足は非常に顕著となり、IT部門やIT企業だけでなく、業務部門自らシステムを開発する「シチズンデベロッパー」のような、システム開発スキルを持たずに開発する人々が現れるようになった。また、現在は変化の激しい時代であり、新サービスをITですぐにリリースできるよう、システム開発のスピードは高速化が求められるようになった。
供給の観点
- 開発ツールの増加
- 開発ツールの適用領域の拡大
ローコードという言葉が定義されたのは、米調査会社Forrester Researchによる2014年のレポートだと言われている。その頃と比べ開発ツールは格段に増えており、全世界で数百社程の開発ツールベンダーが存在するとも言われている。
開発ツールの適用領域も広がっている。企業活動を支える業務アプリケーション、企業や団体、個人が外部に情報を発信するウェブサイト、商品を販売するECサイト、システム同士やデータをつなぐデータシステム連携など、多様なシステムをローコード開発で実現できるようになった。
ローコード開発におけるメリット
ローコード開発によりどのようなメリットがあるか、IT部門とユーザー視点で見てみよう。
IT部門のメリット
- システム開発に要する工数を削減できる
- システム開発の期間を短縮できる
- システムの全体像を可視化できる
企業や団体の業務が多様化、複雑化するに従い、システムも多様化、複雑化している。システム開発工数と期間は大きくなる中で、開発ツールがソースコードを生成するため、圧倒的に工数を削減できる。それに伴い、システム開発期間も短縮することができる。また、ローコード開発は、開発ツールに直接システム設計情報をビジュアル的に定義するため、設計情報を可視化し、システムの全体像も設計書やソースコードと比較して理解しやすくなる。
ユーザーのメリット
- 短期間でシステムを利用開始し、価値を早く享受できる
- 品質の高いシステムを利用できる
- 要件通りのシステムを利用できる
システム開発期間が短縮されることでより早く利用を開始できるため、新サービスを競合他社より先に市場に投入する、業務効率性の向上によるコストを削減するなど、システムによって得られる価値を今までよりも早く享受できる。
品質面でも、プログラミングミスをツールで抑制するため、バグが少なく障害が起きにくい、品質の高いシステムを利用できる。また、要件を開発ツールに設計情報として定義し、その場でプロトタイプを開発し動作を確認できる。要件との違いがあれば、要件と合うまで修正することで、要件に沿ったシステムを開発できる。