これからは「マルチクラウド」の利用が加速していく――。IT市場ではこのところ、こう言われて非常に有望視されているマルチクラウドだが、本当にそうか。異論を2つ取り上げて考察してみたい。
まずは「シングルクラウド」を正しく理解せよ
1つ目の異論は、Gartnerのメッセージだ。ガートナー ジャパンが先頃オンラインで開催した「Gartner IT Symposium/Xpo 2020」の「クラウドコンピューティング・トレンド2021」と題した講演で、同社 リサーチ&アドバイザリ部門 ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストの亦賀(またが)忠明氏が発信したものである。
そのメッセージの前に、同氏がマルチクラウドの定義や種類について説明していたので記しておこう。まず、定義は「複数社のパブリッククラウドを組み合わせて使用すること」である。代表的なパブリッククラウドとして、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)を挙げていたので、ここではIaaS(Infrastructure as a Service)が対象と捉えていただきたい。
種類としては、ベンダーロックインを懸念してマルチにするというガバナンスの観点から生まれた「計画的マルチクラウド」、シャドーITによって結果的にマルチになった「自然発生的マルチクラウド」、例えばベースはAWSだがAI(人工知能)やアナリティクスはGCPといった使い方の「発展的マルチクラウド」、例えばAWS上でGCPを動かすような「先端的マルチクラウド」の4つがある(表1参照)。
表1:4つのタイプからなるマルチクラウド(出典:ガートナー ジャパン)
そして、メッセージは「2025年まで、マルチクラウドに関する議論は継続するが、その70%が『本物のクラウドとはサービス部品の集合体である』というリアリティーの理解不足から、空回りになる」と予測したものだ。亦賀氏は、「未だ多くの人がクラウドについて正しく理解していない状況が見られる。シングルクラウドの正しい理解なくしてマルチクラウドの適切な理解はできない」と強調した。
ということで、同氏は「改めて全ての人は、クラウドとは何かをきちんと理解する必要がある」として図1を示し、「クラウドとは、従来型のアウトソーシングや仮想ホスティングの延長ではなく、サービス部品の集合体だ。前者は10年前の見方なので速やかに改める必要がある」と念を押した。
図1:本物のクラウドとは何か(出典:ガートナー ジャパン)
「シングルクラウドの正しい理解なくしてマルチクラウドの適切な理解はできない」という同氏の言葉を重ねて強調しておきたい。