本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、ガートナー ジャパン バイスプレジデント アナリストの本好宏次氏と、日本マイクロソフト 業務執行役員パブリックセクター事業本部デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏の発言を紹介する。
「SAP ERPユーザーはS/4HANAへの移行で『2025年の崖』を克服すべし」
(ガートナー ジャパン バイスプレジデント アナリストの本好宏次氏)
ガートナー ジャパン バイスプレジデント アナリストの本好宏次氏
ガートナー ジャパンでERP(統合基幹業務システム)をはじめとした業務アプリケーション分野に詳しい本好氏は、同社が先頃オンラインで開催した「Gartner IT Symposium/Xpo 2020」の「SAPの『2027年問題』を乗り越えるには」と題した講演で、冒頭のようにSAP ERPユーザーに対して訴えた。
大手企業の多くが利用するSAP ERP。その既存版である「SAP ERP 6.0」の標準保守期限を2025年末から2027年末に延期すると、SAPが2020年2月に発表した。さらに、追加の保守料を支払えば2030年末まで延長可能となった。
本好氏はこの動きについて、「安堵したSAP ERPユーザーもいるだろうが、今後どのようにするか、しっかりと考えなければならない」とした上で、「ERP 6.0は世に出て14年が経ち、もはやレガシーERPと化しつつある。多くのユーザーにとっては後継製品であるS/4HANAへ移行するのが既定路線だ。これまでは『行くべきか、行かざるべきか』を議論してきたが、これからは『いつどのように行くべきか』を考えるべきだ」と説いた(図1)。
図1:SAP ERPの保守期限延長について(出典:ガートナー ジャパン)
同氏によると、SAP ERPユーザーには今後、3つの選択肢がある。1つ目は「S/4HANAへの移行を速やかに推進する」、2つ目は「S/4HANAの成熟度を確認しながら慎重に採用時期を判断する」、3つ目は「S/4HANAへ移行せずに第三者保守サービス、あるいは代替製品を利用する」といった具合だ。「おそらく6割超のユーザーが2つ目に当てはまる。しかし、遅くとも2024年までに方針を決めないと、2027年までにS/4HANAの導入が間に合わなくなる可能性がある」と同氏は注意を促した。
冒頭の発言は、そうした選択肢の話の後に出てきたものだ。「2025年の崖」というのは、「経済産業省が2025年までにレガシーアプリケーションを刷新してデジタルトランスフォーメーション(DX)の足かせにならないようにしていこうという文脈で警鐘を鳴らしたキーワード」(本好氏)である。
冒頭の発言にある「S/4HANAへの移行で『2025年の崖』を克服すべし」とはどういうことか。同氏は図2を示し、「例えば、アナリティクスを組み込んでデータ活用を一層推進したり、分散しているデータやアプリケーションを統合して全体最適を図る。また、ERPの中でも非競争領域はさらに標準化を進める一方、競争領域についてはDXによって差別化を図ることによって、S/4HANAへの移行を『2025年の崖』の克服に向けた千載一遇の機会にできる」と説明した。
図2は、「2025年の崖」の克服に向けた企業の基幹業務システムの刷新ポイントといえよう。興味深い図である。
図2:S/4HANAへの移行を「2025年の崖」の克服に向けた千載一遇の機会に(出典:ガートナー ジャパン)