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展望2020年のIT企業

「社会貢献価格」がIT産業に変革を促すか--富士通前常務らが設立したIT企業の影響力

田中克己

2020-12-09 07:00

 「社会貢献価格」――、笑顔でこう語るのは、2020年11月にITアドバイザー事業を本格的にスタートしたナレッジピースの阪井洋之代表取締役CEO(最高経営責任者)だ。ユーザー企業の業務改革やデジタル化などを支援する顧問料が月額30万円程度という破格の料金設定にした背景を探ってみた。

 同社は2020年7月まで富士通の執行役員常務を務めていた61歳の阪井氏と、同じく6月まで同社執行役員常務だった56歳の吉澤尚子氏、IT部門などを担当した纐纈孝彦氏、マーケティングなどを担当した大島昭氏(COO、最高執行責任者)、営業出身の石田陽一氏の5人が共同出資し、立ち上げた。5人が取締役に就いたほか、30人以上の富士通らを退職した幹部らがアドバイザーとして名を連ねる。

 阪井氏によれば、ナレッジピースは中堅中小企業のデジタル化を支援するため、ITに関する知見や目利き力のある人材を顧問として派遣する。そうした人材がユーザー企業にいなければ、ITベンダーの言われるままになる可能性が高い。事実、業務要件をまとめられず、ITベンダーの提案を評価できないユーザー企業は、ITベンダーに丸投げする。富士通で東京オリンピック・パラリンピックなどスポーツ業界を担当した阪井氏は「IT専門担当者が少なく、業務要件をまとめられず、トラブルになった事例を見た」とし、ユーザーのITリテラシーにも課題があると指摘する。地方自治体など行政にも、同じようなことが言える。

 一方、ノルマを達成したいITベンダーの担当者は自社ソリューションを高く売ろうとする。ユーザー企業の事情を知りながらも、「あれも、これも」との要望を聞き入れて、「不必要だ」と分かっていても、IT予算にどんどん盛り込んでいく。結果、ユーザー企業は高いコストを支払う羽目になる。富士通でCIO(最高情報責任者)を経験した纐纈氏らにはよく分かることだろう。

 阪井氏は「実は、要件がなかなか固まらないと、ITベンダーも困ってしまう」と、顧問の派遣がITベンダーの支援にもなるという。業務改革に向けたデジタル化の企画からシステム構築のフェーズごとに支援したり、ITベンダーの選定に関与したりもし、「お金をかけないデジタル化」(纐纈氏)も助ける。顧問料は、経営企画やデジタル変革戦略が月20時間で約30万円、営業強化・販路拡大が同約30万円などと安価な設定にする。しかも、送り込む顧問は1人ではなく、2人から3人で対応し、フェーズごとに担当者を変えたりもする。

 実は、富士通など大手ITベンダーの退職者らにも、同社設立は朗報になるかもしれない。役職定年になり、60歳前に退職する幹部や、副業を始める若手らの受け皿になるということ。彼らや彼女らの技術力、企画力などを生かし、ウェブページ作成ツール「Wix」など複数のデジタルツールを組み合わせて、安価なシステムを作り上げる。「お金のかけないデジタル化」の実現になる。

 阪井氏はこうしたギグワーカーらが参画する同社のビジネスモデルを「フリーランスの集合体」と表現する。フリーランスの活躍の場は、やがてユーザー企業のIT責任者になったり、外資系に転職したり、さらに新しいビジネスモデルを創出するIT企業の起業へと発展したりすることも期待される。だからか、ナレッジピースはユーザー企業だけではなく、外資系の日本市場開拓やスタートアップの支援も事業内容に盛り込んでいる。

 阪井氏は、ナレッジピースのターゲットを中堅中小企業とするが、同社の役員を含めたアドバイザーの9割は富士通出身なので、中小企業より大手企業に強い人材がそろっているといえる。そこに打ち出した「社会貢献価格」が、日本企業のデジタル化を加速させる一方で、弱体化する日本の大手ITベンダーに構造変革を促すものになってほしい。目先のことではなく、将来を見据えたIT産業の在り方も示す。阪井氏らにそんなことを期待する。

左が纐纈取締役、右が阪井CEO
左が纐纈取締役、右が阪井CEO
田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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