進化論から考える--個人の幸せと組織の冗長性、デジタルとの付き合い方 - (page 2)

阿久津良和

2020-12-11 06:45

 西田氏はデジタルトランスフォーメーション(DX)の欠点について、次のよう語る。

 「(政府が11月25日に提言した資料では)Excelの書き方。1セルに多くのデータを書き込むのではなく、1セル=1データと提言した。修正前は人間が視認しやすいが、修正後(提言)は別の統計データとして流用しやすく整備している。異なる表現を用いれば修正前は『紙のためのデータ』、修正後は『データをそのまま扱うデータ』」

 その上で西田氏は、Netflixは庶務などに連絡して受け取る備品を管理しておらず、「備品管理の負担をなくすことで、管理しない効率性の向上を選択」したと事例を披露した。

 また、西田氏は「デジタル『で』変わるのではなく、デジタル『も』変わる。企業と個人の関係、働き方に用いるツールも変化した。顧客との接点を広げるのも大事だが、何のために集める、広げるかが重要。たとえば名刺交換をするとDMメールが送られてくるものの、誰も望んでいない。それはムダにデータを収集していることになる。あくまでもDXは働き方改革であり、企業改革」がDXの本質であると述べた。

組織が一番大切にすべきことは何か

 桑原氏が「これからの組織が一番大切にすべきこと」とのお題を掲げ、各パネリストはフリップを掲げて次のように主張した。

羽衣国際大学 現代社会学部 教授 タレント にしゃんた氏
羽衣国際大学 現代社会学部 教授 タレント にしゃんた氏
Scrum Ventures 戦略担当バイスプレジデント 桑原智隆氏
Scrum Ventures 戦略担当バイスプレジデント 桑原智隆氏

 にしゃんた氏は自身の造語である「共笑(ともえ)」を掲げた。「『共生』は現実的ではない。制度と言動、心の壁を取り払う『共笑』が崇高な概念だと考えている。世界が惚れ込んだ日本社会の維持発展に寄与したい」(にしゃんた氏)

 西田氏は「持続するために何をすべきなのか」を掲げた。その理由として「組織にとって重要なのは成長ではなく、生き続けること。別の表現を使えば、『無理はダメ』。変化を受け入れつつ、快適な部分は維持する。ソニーは『いい人材を集めるには環境問題に対して関与しなければならない』と語っていた。これは自分や組織を維持するためには、環境も持続的に維持しなければならないという意味だ。楽になれば皆が笑う社会になるだろう」と西田氏は解説した。

 長沼氏は「個人個人の冗長性と反脆弱性の担保、一人ひとりの幸せ」を掲げた。長沼氏は冗長性が頑健性(環境変化や遺伝的変化に抗して、システムの状態を保持する性質)を保証するが、単語を置き換えれば反脆弱性という表現が可能だと説明する。その上で「個々は弱く、強くなるためには冗長性が必要。だが、個人で冗長性を担保するのは難しい。だから組織が冗長性を担保すべきだ。皆で担保すべきだ」と長沼氏は語った。

アシスタントを務めたヴァイオリニストの松尾依里佳氏
アシスタントを務めたヴァイオリニストの松尾依里佳氏

 最後に視聴者へ向けて「企業がより優先的に考えるべきはどちら?」というアンケートを実施。選択肢は「(1)働き方というシステム」「(2)働く人、一人ひとりの生き方」の2つ。(1)は31%、(2)は69%という結果になった。

 この結果に対して長沼氏は「設問が難しい。互いが関連し合っている」。にしゃんた氏は「世界は性悪説だが、日本は性善説を前提にしている。組織には人を信用する性善説を期待したい」。西田氏は「管理という概念はなくなる。自宅で働くのであれば、異なるルールを適用すべきだ。柔軟性と多様性をデジタルツールで確保できる時代。組織を維持するための方法論だと思う」と感想を述べた。

 桑原氏は「ヒューマンタッチがあり、一人ひとりに多様な選択肢を与えている。(デジタルが)多様な幸福をもたらすのが大事だ」と話をまとめた。

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