信頼できるテクノロジーアドバイザーになる--日本オラクルの三澤新社長が事業戦略

藤本京子

2020-12-15 07:59

 日本オラクルは12月14日、事業戦略説明会を開催した。説明会では、日本IBMから日本オラクルへと復帰し、12月1日に執行役社長に就任した三澤智光氏が登壇、新たに設定したビジョンと戦略について語った。

 新たに設定したビジョンとは、「顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するTrusted Technology Advisor(信頼できるテクノロジーアドバイザー)になる」というビジョンだ。「テクノロジーベンダーであるオラクルには、顧客のクラウドジャーニーを導く義務がある。共にDXを実現していくという思いを込め、このビジョンを掲げた」と三澤氏は説明する。

日本オラクルの新たなビジョン
日本オラクルの新たなビジョン

 その上で、オラクルの製品戦略については、「オラクルがデータドリブンなDXで実現したビジネス成果を顧客にも届けること」「顧客のビジネスを支えるITトランスフォーメーションを次世代のハイブリッドクラウドで支援していくこと」「社会基盤ともいえる『Oracle Database』や『Oracle Exadata』のさらなる堅牢化と進化で社会に貢献していくこと」を挙げた。

 オラクルでは、自らオラクルのサービスを活用して業務改革し、それを製品やサービスに反映して顧客に還元する方式を採っている。自社改革プロジェクトを同社では「Oracle@Oracle」としており、現在はクラウドを活用したデータドリブンなDXをテーマとし、クラウドへのトランスフォーメーションやデータのシングルデータモデル化、人工知能(AI)を活用した業務自動化にフォーカスしている。

 これにより、さまざまな業務改革が実現したという。「例えば、営業・マーケティングでは、受注業務の70%を完全に自動化したほか、契約書作成業務の電子化がこの1年で8%から92%にまで進んだ。会計部門では、在宅勤務であるにもかかわらず、四半期決算を前年より3日短い16日間で実施した。複雑なリコンサイル(残高照会)業務も41%自動化できている」と、三澤氏はOracle@Oracleの成果を強調。「この成果を顧客にも届けたい」とした。

 今後はAIを活用したさらなる自動化を進め、マニュアル作業を極小化していく。例えば経費システムのチャットボット化なども検討しているという。社内DXをさらに加速させ、その経験を顧客に伝える責任者として、新たにデジタル改革担当役員も任命した。取締役 執行役副社長 最高執行責任者の湊宏司氏がこの役目を担うことになる。

 さらにテクノロジーが進化することで、どのような未来を提供していきたいかについては、「新しい半導体であるPersistent Memoryにより、大きな革新が起こる。オラクルはPersistent Memoryネイティブなソフトウェアを提供することで、トランザクションシステムに革新を起こすことになる」と三澤氏。また、「AIや機械学習の活用で、プロセスの自動化や能動的なデータ活用、システムそのものの自動化を加速させる」としており、「顧客がコストかけてAIを構築するのではなく、そのまま使えるAIをオラクルが提供していく」と述べた。

 さらに、データの一貫性や永続性を必要とするアプリケーションには、マイクロサービスやコンテナーなどのクラウドネイティブ技術があまり向いていないとされているが、三澤氏はこの点について、「データベースの進化がこの状況を変える。つまり、クラウドネイティブアプリケーションの真の実用化を目指す」としている。

日本オラクル 執行役社長の三澤智光氏
日本オラクル 執行役社長の三澤智光氏

不在中にSaaS・クラウド事業が大きく進化

 2016年7月から2020年までの約4年間、日本IBMで過ごした三澤氏は、同社で学んだことについて「製品だけを主軸にしているベンダーとは異なり、アウトソーシングも含めたサービスを提供する企業の立ち位置や責任の重さを実感した」と語る。また、オラクルに復帰した理由については、「オラクルはインフラだけでなくビジネスアプリケーションも抱え、エンタープライズ領域で社会貢献できるようなシステムが提供できる。本当の意味で社会インフラに近い基盤を揃えている数少ないベンダーがオラクルだと考えた」と述べている。

 一方で、オラクルに復帰して驚いた点としては、SaaSが大きく進化したことを挙げる。「米国の決算でもSaaS事業は絶好調。いまやSaaSプロバイダーとして最大規模であることは間違いない。以前在籍していた頃より完成度も高く、大企業でも活用できるフルスイートのSaaSが提供できるようになった」と三澤氏。

 また、クラウドインフラの進化についても、「第2世代のクラウドとして、Leaf&Spine型のネットワークを採用し、ミッションクリティカルなワークロードに対応できるようになった。また、ソフトウェア仮想化ではなく、オフボックスネットワーク仮想化テクノロジーを用い、ネットワークレイヤーでテナントを分離させている。これにより仮想化のオーバーヘッドがなく、コンピュートを100%ユーザー処理に使えるようになった。セキュリティ機能も向上し、デフォルトでネットワーク、データベース、ストレージを暗号化している。人的エラーを最小限にとどめるための自動化セキュリティ管理機能も提供している。ハイブリッドソリューションでは、コンパクトかつ省エネデザインにより、パブリッククラウドとオンプレミスで全く同じ環境が構築できるようになっている」と説明した。

 競合となるクラウドベンダーとの違いについては、「オラクルが差別化できるのはSaaS。真の意味で大企業に耐え得るフルスイートのSaaSをクラウドネイティブで提供できる会社はオラクルだけだ」と語る。また、こうしたフルスイート製品のそれぞれのモジュールが、シングルデータモデルで構成されている点も差別化要素として挙げる。「それぞれのモジュールが個別のデータを持っているが、論理的にはシングルデータモデルで構成されているため、ビジネスプロセスの自動化が実現する。それぞれインテグレーションする必要はなく、シングルデータの中でプロセスが実行できるのは、他社にはない特徴だ」(三澤氏)

 グローバルでクラウド事業を加速させようとしているオラクルだが、「日本ではまだオンプレミスソフトウェアとそれに基づくサポートサービスの比率が高い」と三澤氏は明かす。この事業も引き続き重要だとしつつ、「今後はこの分野のメンテナンスと同時に、成長率が圧倒的に高いSaaSやクラウドビジネスの比率を高めたい」とした。

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