本連載では、中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について解説してきました。最後の2回では、スタートアップ企業での顧客関係管理システム(CRM)活用を中心に取り上げます。
スタートアップ企業では、事業開始当初からデジタルを最大限に活用した組織づくり、業務設計をしている場合が多いです。歴史ある中小企業ほどの変革の困難さはありませんが、それでも気をつけるべき点はあります。
筆者は、セールスフォース・ドットコムでインサイドセールス部門の本部長をしており、若手社員を中心にしたチームで、マーケティングと営業をつなぐための組織を運営しています。インサイドセールスに限らず、組織全体で顧客中心のコミュニケーションをとるための組織づくりや考え方について解説します。
緊急事態宣言解除までのスタートアップ企業の働き方の変化
新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言発令前後から、スタートアップ企業の多くがテレワーク、オンライン会議、オンラインセミナーなどで柔軟に事業運営を変化させていました。組織が大きくないこと、初めからデジタル中心の働き方を前提していることに加え、市場の動きにあわせて変化できる企業が多いからだと思います。
新しい事業戦略にシフトした企業もあり、新たな収益を得ている企業もあります。セールスフォース・ドットコムの戦略投資部門であるSalesforce Venturesが国内の企業向けクラウドサービスを提供するスタートアップ企業を対象に実施した「新型コロナウイルスのSaaS企業への影響に関する実態調査」でも、この傾向ははっきり出ています。
- コロナの影響で営業戦略において何らかの変更を行った企業の割合が約90%
- 「新たな収益機会を見出せた」と回答した企業が約72%
- 「コロナがDXを加速させ、自社の事業にとって追い風になると考えている」企業が約97%
例えば、クラウド会計ソフトを提供するfreee(品川区、従業員数506人)では、緊急事態宣言発令前の2020年3月2日から全社テレワークを実施しました。同社のビジネスを考えると、決算月の多い3月、新年度が始まる4月以降は繁忙期です。この時期でも、Salesforceを含め他社のクラウドサービスを組み合わせて、事業を止めずに迅速にテレワークを成功させたのです。
自社でクラウドサービスを提供する企業にとって、他社のクラウドサービスの活用は、勉強、研究にもつながります。こうした背景もあり、freeeでもオンライン会議、電子サイン、コラボレーションツールなど必要なサービスを柔軟に組み合わせて、働き方を変化し、事業を継続させました。
スタートアップ企業におけるテクノロジー活用の実態--中心は顧客
スタートアップ企業では、事業開始当初から必要なクラウドサービスを積極的に取り入れる傾向があります。CRM、マーケティングオートメーション(MA)などの顧客管理、見込客獲得に関するサービスについても、過去のデータがない分導入しやすく各部門全体が連携しながら、顧客を中心に対応していく体制づくりに必須のツールとして捉えています。
顧客を中心とした事業展開イメージ(出典:セールスフォース・ドットコム)
上図のように、部門が異なっても共通のデータを見ながら顧客対応できると、顧客の変化を察知して俊敏に対応できるようになります。各部門が顧客を中心に動いているようなイメージです。CRMがなければ顧客のデータを確認するだけでも、いろいろなツールにまたがってデータをチェックするなど非効率になります。