ローコード開発の事例から業務部門の関わり方や開発スキルの育成方法を考察する - (page 2)

坂本毅 (クニエ)

2021-01-06 07:00

事例3:IT部門がローコード開発を学んでスキルを育成

背景

 建設業界のF社は、これまで担当した建築物の新築、メンテナンス、リニューアルの竣工データをビジネスに活用すべく、その基盤となる竣工図書と物件情報を電子的に管理するシステムを企画した。当時は書類の管理が個人に依存する側面があり、紙の書類がキャビネットの容量を超えてしまうという状態であった。

 システムを開発するために、既にF社で利用実績のあったGeneXusを活用したローコード開発を採用した。

体制とスキル育成

 体制は、F社のIT部門がGeneXusを使って要件を定義、GeneXusによるプログラム生成はIT企業が担当した。

 IT部門の要員はGeneXusの利用経験はあったが、この開発案件以降GeneXusでのローコード開発を拡大することも見越して、改めてGeneXusのスキルを習得した。具体的には、GeneXusの基礎講習を3日間受講し、それ以降はIT企業の拠点に赴き、On The Job Training (OJT)でスキルを身に付けた。

効果

 ローコード開発で進めた結果、要件定義に1~2カ月、システムの開発は要件定義を含めて5カ月程で完了した。開発を通じて、IT部門の要員の開発スキルが向上した。さらに、以降の開発では、内製で進めていきたいという意欲が芽生えた。

課題と解決策

 開発を進めると、要件定義や“イテレーション(一連の工程を短期間で何度も繰り返し完成していく開発サイクルの単位)”中にユーザーからの要望が次々に上がってくる事態となった。やはり具体的な画面を作りながら要件定義やイテレーションを行うため、ユーザーが具体的な改善要望を思い付きやすいためであったが、全ての要望を反映すると予算オーバーとなるため、要望の優先順位をつけて開発範囲をコントロールした。ローコード開発では、ユーザーの具体的な要件を掘り起こせるメリットがある一方で、要件をコントロールする手腕が必要となる。

*****

 ここまで、業務部門が主導した開発事例、IT部門のみならず、業務部門においてもスキル育成に貢献した事例を紹介した。システム開発を進めると、ユーザーの要件・期待とは異なるシステムが開発されるケースがみられる。ローコード開発では、具体的な画面や機能を早期に確認できるので、ユーザーの要件・期待通りもしくは期待以上のシステムを開発できることが大きなメリットである。また、開発期間は既存の手法と比較すると大変短く、2カ月で開発した事例からわかるように、早期にシステムによる価値を享受できる。

 スキル習得の観点からも、ローコード開発は、プログラミングを最初から学ぶよりも容易であると筆者は考える。IT部門または業務部門がローコード開発スキルを習得することで、システムの内製開発を推進できる。

 次回は、ローコード開発の効果と要因を分析するとともに、ローコード開発において考慮すべき点とその対策を考察する。

(第4回は1月中旬にて掲載予定)

坂本 毅(さかもと つよし)
クニエ CIOサポート担当 マネージャー

IT企業、金融機関を経て現職。IT企業では、金融や製造業を中心にシステム運用アウトソーシングのセールスからデリバリーフェーズまで、数多くのプロジェクトを経験。金融機関では、IT経費削減、システム構造改革、システム開発の生産性向上、IT中計の策定などに従事し、IT戦略に関する豊富な経験を有する。
現在は、ITマネジメントに関するコンサルティング業務を手掛けている。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]