前回は、デジタル変革(DX)の推進を円滑にするためにはデジタル時代に適合する組織文化が必要であり、その要件が6つあると述べました。今回は、これら組織カルチャーの6つの要件について順を追って説明します。
DXの本質と変革の必要性を理解する
デジタル時代の組織カルチャーを手に入れるには、まず、経営者を含む誰もがDXの本質と変革の必要性を理解していなければなりません。しかし、国内企業には「ITやテクノロジーは苦手だ」「担当者に任せている」という経営者が少なくありません。また、ビジネスの最前線にいる営業部門や事業部門にも、テクノロジーの活用を他人事と捉えているスタッフが存在します。
例えば、人工知能(AI)の適用分野を探そうと社内をヒアリングして回っても、現場のスタッフがそもそもAIで何ができるのかが分からないためニーズが出てこないといったことが起こっています。経営者や現場スタッフは、ITやデジタル技術の専門家や担当者ではないので、実務的に詳細な知識が必要なわけではありません。しかし、デジタル化がもたらす本質的な価値と無限に広がる可能性については誰もが理解していなければなりません。
まずは、なぜDXが必要なのか、自社がDXによって目指すべき先はどこなのかを組織の階層を問わず全員が腹落ちするまで議論し、「思い」を共有することが求められます(図1)。
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デジタルが浸透した世界では、DX推進部門やITの担当者だけでなく、誰もがデジタルを前提にビジネスや業務の在り方を考えなければならなりません。組織全体のデジタル感度を向上させることが重要です。
国や業種を問わずデジタルを駆使したビジネスを推進している先進的な企業や、デジタルによって業務や組織運営を変革している企業から学ぶことが重要です。特にこれからは、同業他社だけでなく異業種や新興企業の動きにも注目することが求められます。
創造的な活動が自由に行えて、支持される
誰もがテクノロジーの価値と可能性を理解した上で、デジタル技術の活用を前提にビジネスや業務の在り方を考え、新たなビジネスを創出したり、業務を抜本的に変革したりしていくためには、日常の業務に埋没することなく、新たな価値の創出のために何らかの行動を起こすことが必要です。そして、それは誰かからの指示や命令によるものではなく、自発的に行われることが望ましい姿といえます。
このような創造的な活動を自由に行うことができ、経営者や周囲の人たちからも支持され、協力を得ることができ、そしてそのような活動の成果が称賛されるような環境を持つことがデジタル時代の組織カルチャーの要件といえます。また、それを実現するためには、自分で時間をコントロールする権限、予算を執行できる権限、組織や人的リソースを動かす権限などが一定の範囲内で委譲されている必要があります。テクノロジーは日々進化していますし、新たな技術や革新的な応用方法も次々に生まれています。それらを調査研究したり、適用性を検証したりするような取り組みを誰もが自由に行えることが重要です。
GoogleやAmazonのようなデジタルネイティブ企業は、まさにこれを実践しています。Googleでは、社員が業務時間の2割を個人的にやりたい仕事に充てることができる「20%ルール」は有名です。また、1人1回175ドルまで社員が社員にボーナスを支給できる「gサンクス」制度は、従業員一人ひとりが主体的に動くことを促進する役割を果たしています。