2020年は新型コロナウイルス感染症の脅威に翻弄(ほんろう)された1年といっていいでしょう。これまで当たり前だった人々の交流が遮断され、社会生活そのものが沈滞しました。
その一方、急激に進んだのがデジタルの活用です。対面コミュニケーションはリモートになり、顧客とのタッチポイントとして、デジタルチャネルの重要性は一気に高まりました。これからのポストコロナ時代、技術の進化や顧客行動の変容を考えると、このデジタルシフトは一過性のものではなく、ますます加速すると予想できます。
こうした中、CIO(最高情報責任者)やITマネージャーは自社のIT基盤をどのように企画・設計していけばいいのでしょうか。この連載では、プラットフォームやデータの観点からポストコロナ時代のビジネスの在り方を考え、プラットフォームとITガバナンスを整えるヒントを紹介していきます。
2020年、瞬く間に世界に広がった新型コロナウイルスにより、私たちの社会生活は大きく変わりました。大学の授業はほとんどがオンラインになったり、これまで在宅勤務がなかった企業もリモートワークを取り入れたり、飲食店が宅配サービスを始めたりと、リアルからデジタルへ、密接からソーシャルディスタンスへと、コミュニケーションの在り方が変革しています。未知の感染症により、考える間もなく、強制的にデジタルへ移行したという見方もできるでしょう。
ただ、変革は待ってくれません。実際、これまでの商習慣やビジネスが大きく変わりつつあります。その顕著な例が、2020年10月に始まった「行政手続きにおける押印廃止」です。これまでは、行政文書の手続きや国に提出する文書、企業文書において、「紙文書での押印」が半ば義務化されていました。しかし、2020年4月に始まった緊急事態宣言下の中、「紙の書類に押印するだけのために、感染リスクを押して出社しないといけない」という事態が深刻化し、新聞でも大きく取り上げられたのです。
こうした事態に対し、国が改善に乗り出しました。紙文書中心で時間がかかる手続きプロセスを廃止し、デジタル導入によって効率化や生産性の向上、競争力強化を目指すため、約1万5000ある行政手続きのうち99.247%が押印廃止に向けて検討されているそうです。これを受け、地方自治体や外郭団体、企業の中でも、押印廃止・デジタル化が活発に議論されるようになりました。
同じ流れに、EC(電子商取引)化の促進もあります。外出制限や自粛が続き、ECで買い物をする人が増えました。アドビが2020年7月に発表した調査では、外出自粛をきっかけにオンラインでの購買行動が進み、今後は店舗とオンラインを併用した購入へシフトしていく傾向が明らかとなりました。また、2020年12月にMMD研究所が発表した調査によると、総合ECサイト利用者のうち、コロナ禍で利用を開始した人は4.8%、利用頻度が増えたユーザーは21.3%となり、ECの需要が高まりました。
これまであまりECを利用しなかった60代男性も、コロナ禍の2020年8〜10月は、同3月以前と比べ、利用頻度は2、3倍になっています。ブルームバーグによると、店頭での売り上げが減少した百貨店の下支えとして、ECが大きく貢献したようです。日本国内のEC取引率は、米国や中国などと比べると低く、今回のコロナをきっかけにEC化は進むと予測されます。
一方、変革が進まない分野もあります。ゼロからビジネスケースを構築するような分野です。この状況下、従来のビジネスモデルが成り立たなくなり、新しい戦略を求められる企業も少なくありません。先に挙げた百貨店はもちろん、飲食業や観光業、ジムやカルチャースクール、エステなどのサービス業も、これまでと違った新しい様式のビジネスモデルを開拓する必要があります。
ところが、こうした変革がスピーディーに進むケースはほとんど見られません。