庭山一郎「戦略なきIT投資の行く末」

SIerがコト売りに転換できない2つの決定的な要素

庭山一郎 (シンフォニーマーケティング)

2021-01-26 07:00

 最近、日本企業の経営者が書く中期経営計画の中に必ず入っている2つのキーワードが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「コト売りへの転換」だそうです。これはIT産業やその中核であるSIer(システムインテグレーター)も同じなのですが、コト売りへの転換に関しては全く進んでいません。その原因はコト売りのメカニズムが正しく理解されておらず、転換するために必要な2つの決定的な要素がそろっていないからです。

 その2つの要素とは「ソリューションブランド」と「課題探知能力」です。

ソリューションブランドとは

 モノ売りからコト売りに転換しようとしたときに経営者が真っ先に取り組むことはスキルアップだそうです。スキルアップ自体簡単なことではありませんが、営業がスキルアップしたからといって顧客からのイメージがすぐに変わるわけではありません。「出入りの業者」というポジションでフットワークと価格が評価されていた企業の担当者が、いきなりコンサルタントのようなスタンスで課題を指摘したところで誰も話を聞いてはくれないでしょう。必要なことは、その会社がどんな得意技を持っていて、どんな課題を解決した実績を持ち、なぜそういう課題を解決できるのか?という「ソリューションブランド」なのです。

 弊社ではBtoB企業のブランドを以下の通りに分類して考えています。

  1. 企業ブランド
  2. 製品/サービスブランド
  3. ソリューションブランド

 企業ブランドは文字通りターゲットから見た企業名の認知で、ある課題を解決しようとしたときに担当者の頭にその企業名が頭に浮かぶか、というものです。非常に細かいちりが多い環境で作業員の健康を守ろうと考えている人の頭に「3M」という企業名が浮かべば、同社のウェブサイトに行くことで素晴らしい機能を備えた防じんマスクを見つけることができるでしょう。

 製品/サービスブランドも同様で、ある課題を解決しようとしている担当者の頭に製品やサービスの名前が浮かべば商談化につながります。実はこの企業ブランドと製品ブランドはどちらかだけでも十分に用が足ります。社内にサーバーを置くのはもう嫌だと考えている情報システム担当役員の頭に「AWS」というサービス名が浮かべば良く、そのサービスを提供している企業がAmazonという社名だと知られている必要はないのです。

 ただし、社名であっても製品/サービスであっても、商談を作るためにはそれに「ソリューションブランド」がひも付いていることが重要です。これは「その企業や製品/サービスが何を得意とし、どういう課題を解決するときに役に立つのか」という認知です。これがなければ社名やロゴが知られていてもほとんど意味はありません。

 Gartnerという企業があります。リサーチ&アドバイザリーファームというカテゴリーの企業で、IT業界のビジネスパーソンならば誰でも社名やロゴは知っていると思います。それはこの会社が社名ブランドに長年投資を続けてきたからです。しかしこのGartnerが「何が得意で、どういう課題を解決してくれるのか」はほとんど知られていません。

 この会社のレポートやアナリストとのミーティングを利用している企業を除けば、時折、新聞紙面に半導体やサーバーの需要予測が掲載されているリサーチ会社だと思われているのです。多くのSIerも社名やロゴばかりにお金を掛けていますが、ソリューションブランドは認知されていません。その企業が「何が得意なのか」が分からなければ何も相談できないものです。

 「御社は何が得意ですか?」と質問すると、SIerの方は「弊社はシステムインテグレーターなので何でも作れます」と言いますが、「何でもできる」ということは「何もできない」のと同義です。人は得意技に引かれて相談をするものです。

 このように、企業ブランドや製品/サービスブランドばかり高めても、肝心のソリューションブランドが認知されていなければ顕在化したビジネスを営業が足で拾い集めるという従来のスタイルから抜け出すことはできず、コト売りには転換できません。顧客から相談相手として認識されるためには「何が得意か」「どんな課題が発生したら門をたたくべきか」を認知してもらうしかないのです。

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