海外コメンタリー

「倫理的なソース」運動の活動家が立ち上げた新たなオープンソース組織をどう見るか

Steven J. Vaughan-Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2021-01-27 06:30

 「ヒポクラテスライセンス」のような倫理を前面に掲げるライセンス(エシカルソースライセンス)は、あまり普及していない。確かに、極めて有名なオープンソースプロジェクトの行動規範である「コントリビューター行動規範(Contributor Covenant)」は成功を収めており、Linuxカーネルの開発者もこのルールを取り入れた。しかし、エシカルコードライセンスで公開されるコードには、難しい問題がある。そこで米国時間1月19日、このライセンスのユーザーを増やすことを目的として、新しい非営利団体である「Organization for Ethical Source」(OES)の設立が発表された。

 OESは、エシカルソース運動のリーダーであり、ヒポクラテスライセンスやコントリビューター行動規範の生みの親でもあるCoraline Ada Ehmke氏が設立した団体で、フリーソフトウェアやオープンソースの「第0の自由」の概念はもはや古いという考え方を中心に据えている。「第0の自由」とは、「目的を問わず、好きなようにプログラムを実行する自由」のことだ。この考え方は、オープンソースソフトウェアの作られ方、使われ方の基本になっている。

 Ehmke氏やその支持者が問題視しているのは、その冒頭の部分だ。同氏らは、オープンソースソフトウェアは「邪悪な目的」も含めてどんな目的に利用してもよいという考え方を嫌っている。OESは次のように述べている。

 「オープンソースの定義」が作られた後に、世界は変わった。オープンソースはあらゆる場所で使われるようになっており、今では悪意のあるアクターによって、大量監視や人種差別的な警察活動をはじめとして、世界中でさまざまな人権侵害に利用されている。OESは、今日の社会的、政治的、技術的な課題の大きさと複雑さに対応するために、オープンソースコミュニティが発展する必要があると信じている。

 この考え方は、実際のライセンスにどのように反映されているのだろうか。ヒポクラテスライセンス2.1MITのオープンソースライセンスを元にして、いくつかの条項を追加したものだ。これらの条項では、人権を国連の世界人権宣言国連グローバルコンパクトに記されているものとして定義している。このライセンスには、それを踏まえた上で次のように書かれている。

 いかなる個人または法人も、本ソフトウェアを人権法に違反するシステム、活動、その他の用途に使用してはならない。「人権法」とは、人権、公民権、労働者の権利、プライバシー権、政治的権利、環境権、セキュリティ権、経済的権利、適正な手続きを受ける権利、および同様の権利を保護するあらゆる適用法、規制、規則(これらを総称してここでは「法律」と呼ぶ)を意味する。ただしこここでの法律は、人権の原則と矛盾せず、人権の原則と衝突しないものを指すものとする(法律と人権の原則の一貫性や衝突に関して争いがある場合には、前述の調停によって解決するものとする)。人権法に複数の司法管轄権が適用される場合、あるいは本ソフトウェアの利用に関して法律間で衝突がある場合には、被害を受ける個人やグループをもっとも保護する人権法を適用する。

 このライセンスの最新版は、Corporate Accountability Lab(CAL)の法務部門の無償協力を受けて作られたものだ。このライセンスは、Rubyの「VCR」ライブラリー、モバイルアプリ開発ツール「Gryphon」、Javascriptの地図表示ライブラリー「react-leaflet」、WeTransferのすべてのオープンソースポートフォリオなど、多くのオープンソースプロジェクトに採用されている。

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