ローコード開発を推進するステップ
ローコード開発の事例が増えているとはいえ、初めて採用する企業にとっては未知の領域である。
一方で、ローコード開発で得られる工数削減効果なども大きい。より大きな効果を得られるよう、ローコード開発を進める8つのステップを提案する。
ステップ1:システム俯瞰図からシステム領域を定義し、開発や更改時期を整理する
企業が利用しているシステムを洗い出し、全体を俯瞰できる図として整備する。企業の業務やシステムの特性に応じて、管理しやすい粒度でシステム領域を定義し、システムを当てはめる。
その上で、各システムの次の更改時期がいつ到来するかを見定める。また予定されている新規システムの開発時期も合わせて整理する。
ステップ2:システム領域ごとにIT投資の方針を整理する
例えば、収益に直結するシステムは戦略的に、基幹系システムや周辺システムはなるべく少ない金額で、といった具合でIT投資の方針を領域ごとに整理する。
ステップ3:今までより少額でIT投資する領域をローコード開発の領域と定める
ローコード開発の大きなメリットは、生産性向上によるシステム開発コストの削減である。今までより少ない金額のIT投資となる領域を見極め、そこをローコード開発の領域と定める。
ステップ4:実証実験する
領域内で最初に開発、更改時期が到来するシステムで、ローコード開発を実証実験する。システムの全機能を一気に開発するのではなく、まずは数機能で試行するイメージである。
小規模のシステムであれば、第3回の事例1 のようにその場で要件からプロトタイプを作る方式も考えられる。中規模であれば、既存の設計書や画面イメージから、数日かけて数機能を開発するアプローチも考えられる。
ステップ5:効果、ノックアウトファクター、TCOを検証する
ローコード開発により、他の手法より工数削減、品質向上等が得られるか、ローコード開発ツールがサポートする技術やバージョンに致命的な要素がないかを検証する。ツールのライセンス費用も考慮に入れて、5年以上の総所有コスト(TCO)の観点で検証する。
ステップ6:誰がローコード開発するか方針を定める
ローコードでの開発をIT部門で内製するのか、ユーザー部門へ任せるのか、IT企業へ委託するのかなど、開発方針を定める。初期はIT企業へ委託し、軌道に乗った後に自社で内製する方針としてもよい。
ステップ7:ローコードで開発する
実証実験したシステムでローコード開発する。開発の過程や開発完了後のシステム稼働状況を見定め、どのような効果が得られ、どのような課題が出たかを検証する。
ステップ8:ローコード開発の範囲を拡大する
同じ領域のほかのシステムへローコード開発を拡大する。ステップ7で得られた課題を教訓として残してナレッジ化しておくと、組織内にローコード開発を進められる人材が増え、ローコード開発の推進力は増強される。ローコード開発が軌道に乗れば、ほかのシステム領域へローコード開発を広げてもよい。
本連載では、ローコード開発の事例をもとに、効果、考慮点、推進ステップに焦点を当てて執筆した。企業のIT人材不足の解決策の1つとしてローコード開発を採用することで、より効率的に企業価値向上に貢献するシステムを開発できるものと確信している。本連載が、その貢献への一助になれば幸いである。
- 坂本 毅(さかもと つよし)
- クニエ CIOサポート担当 マネージャー
- IT企業、金融機関を経て現職。IT企業では、金融や製造業を中心にシステム運用アウトソーシングのセールスからデリバリーフェーズまで、数多くのプロジェクトを経験。金融機関では、IT経費削減、システム構造改革、システム開発の生産性向上、IT中計の策定などに従事し、IT戦略に関する豊富な経験を有する。現在は、ITマネジメントに関するコンサルティング業務を手掛けている。