近年は国内でもローコード開発の手法を取り入れ、業務アプリケーションを事業部門社員などのエンドユーザー自身が作成する取り組みが広がっている。この分野の老舗であり、ローコード開発基盤「OutSystems Platform」を展開するポルトガルのOutSystems 北東アジア統括責任者で日本法人 代表取締役社長のArnold Consengco氏に、今後の事業戦略などを尋ねた。
OutSystems 北東アジア統括責任者 OutSystemsジャパン 代表取締役社長のArnold Consengco氏
同社は2001年に創業し、現在は52カ国で約1400社の顧客を抱える。日本法人は2017年の設立。日本の顧客は145社を数え、約6割が大企業、約4割が中堅・中小企業の構成という。
ローコード開発は、少子高齢化や働き方改革、デジタルトランスフォーメーション(DX)といった文脈から、高度なプログラミング言語を使わずとも直感的な操作で、業務の現場で必要とされるアプリケーションを迅速かつ容易に作成できるとして人気だ。かつてはOutSystemsなど海外の専業ベンダーがツールを提供していたが、最近では海外のIT大手や国内ベンダーも多数この市場に進出している。米Gartnerは、2024年までにソフトウェアの65%がローコードで開発されると予想する。
現在の状況についてConsengco氏は、「日本市場でもようやく『ローコード/ノーコード』の言葉が認知され始めた段階」と話す。しかし、「『ローコード』という言葉は、企業レベルのソフトウェア品質や管理といったことをイメージしづらいという声がある。優れたエンドユーザーコンピューティング体験を提供するが、それによって開発されたアプリケーションが増えると、ガバナンスを確保できなくなり、『シャドーIT』をもたらしかねない」とも指摘する。
ローコード開発基盤の多くは、オンプレミスあるいはクラウドサービスとして提供され、マウス操作でロジックを組んだり、標準のテンプレートや機能モジュール、外部のシステムやデータを連携するためのAPI群などを活用したりしてアプリケーションを生成していける。ユーザーインターフェースのレイアウトデザインも柔軟だ。ただ、開発したアプリケーションを運用したり改善や廃止したりするライフサイクル管理までもカバーする基盤は、多くはないという。
Consengco氏は、OutSystems Platformがライフサイクル管理までも担う統合プラットフォームである点に優位性があると主張する。エンドユーザーが開発したアプリケーションの実際の利用状況分析やリアルタイムな不具合の監視、ステージングや依存性の分析、バージョン管理など、運用フェーズ以降に必要な機能も備える。「ある顧客はアプリケーションをプロトタイプで作成し、さまざまなユーザーの利用状況やフィードバックを取り入れながらアジャイルでさらなる開発を進めている」
OutSystems Platformの特徴
同社は、ローコード/ノーコードの次なる段階として「マルチエクスペリエンスプラットフォーム」というコンセプトを掲げる。単に容易な開発環境を提供するのではなく、アプリケーションユーザーの声を取り入れることで、企業としてのガバナンスを効かせながらアプリケーションが継続的に利用される環境の実現を目指していくという。Consengco氏は、「われわれもクラウドカンパニーのように、ユーザーのフィードバックを迅速に取り入れながら年間に何度も数十の新機能をリリースするサイクルを構築している」と話す。
加えて同氏が注目するのは、「2025年の崖」と称されるレガシーな基幹システムの更新やそれに伴う業務DX化の動きだ。
「日本のIT人材は約7割がベンダー側に所属し、ユーザー企業のIT予算の約7割が既存システムの保守に充てられているが、DXの取り組みから人材や予算をビジネス成長の投資に回すべく、システムやアプリケーションを内製化に切り替える動きが出始めている。多くは、まだITインフラをクラウド化する段階だが、その後にアプリケーションでの新たな取り組みが本格化するだろう」
2021年の事業戦略では、新たにマネージドサービスプロバイダー経由による提供を開始し、国内パートナーを現在の6社から10社以上に拡大させ、200社以上の顧客獲得を目指すという。「現在の日本市場は、かつて呼ばれた『高速開発』から『ローコード/ノーコード』に移りつつある。海外ではその先の『マルチエクスペリエンスプラットフォーム』に進んでおり、エンドユーザーコンピューティングの先を着実に訴求していきたい」(Consengco氏)