日本マイクロソフトは2月2日、クラウドサービスのMicrosoft Azureの製品戦略説明会を開催し、富士フイルムソフトウェアら4社の顧客事例を発表した。商用提供から11年目を迎えた同サービスは、マイクロソフトのクラウド戦略をけん引すると同時に、データドリブン基盤の色合いも強めている。
日本マイクロソフト 業務執行役員 Azureビジネス本部長の上原正太郎氏
同社は、2021年度における注力分野の一つに、クラウドネイティブアプリケーションの内製化を挙げている。説明会で業務執行役員 Azureビジネス本部長の上原正太郎氏は、「自社サービスの競争力を高めるのがDevOps文化。それを支えるPaaSやコンテナー、サーバーレスといった開発需要が年々高まり、われわれ社内のデータではクラウドネイティブ開発者が全世界で650万人を超えた。国内でも規模が拡大しつつある」と説明。顧客企業と伴走し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくと表明した。
現在は、クラウドネイティブな開発者の活動と育成を支援するため、同社では「Azure Light-up」「Cloud Native Dojo」「Enterprise Skills Initiative & Cloud Skills Challenge」といった各プログラムを推進している。このうちAzure Light-upを受講した富士フイルムソフトウェアは、オンプレミスで稼働させていたファイル管理・共有サービス「IMAGE WORKS」が、利用者の要望にスピード感を持って適応できていないことが課題と捉え、マイクロソフトやパートナー企業のゼンアーキテクツと、クラウド移行に取り組んだ。
日本マイクロソフト Azure ビジネス本部 クラウドネイティブ&デベロッパーマーケティング部長の坂田州氏
富士フイルムソフトウェアでは、通常3カ月程度必要な作業をハッカソン形式で3日に短縮し、PaaSやサーバーレスを活用したサービス基盤の近代化や、ハッカソンで得た知見や技術情報を社内に持ち帰り、開発者の育成と新しい文化醸成に成功したという。日本マイクロソフト Azure ビジネス本部 クラウドネイティブ&デベロッパーマーケティング部長の坂田州氏は、「文化醸成につながったのは、われわれとして良い取り組み」とした。なお、Azure Light-upの受講料は規模によって異なるが、「1回約200万円」(坂田氏)という。
Azure Light-upの概要
東京証券取引所は、安価で素早いETF(上場投資信託)取り引きを可能にするRFQ(売買希望銘柄・数量など多数の市場に打診し、個別に提示された価格で売買を行う)プラットフォーム「CONNEQTOR」の開発に、Azure Kubernetes Serviceを採用した。マイクロソフトや富士通など4社が参画し、わずか8カ月で試験運用を開始。PaaSの利点を活用した機能の開発、追加や、テストユーザーからの声をサービスに迅速に反映できる体制を確立している。この取り組みでの学びを基に開始したプログラムが「Cloud Native Dojo」であり、「要件に応じて異なるが期間は2~3カ月で費用は300万以上」(坂田氏)という。
Cloud Native Dojo
また、実店舗やECサイトを運営する雑貨小売りのFrancfranc(フランフラン)は、マイクロソフトのデータサイエンティストやアーキテクトが、企業のデータ分析プロジェクトの導入過程に参加する「Data Hack」を利用して、顧客生涯価値の向上に成功した。実店舗とオンラインの顧客IDやデータが未統合だったサイロ化状態を改善するため、Azure Machine Learningやノーコード分析ツール群を活用。その結果、優良顧客の購買特徴抽出、非開発者や非データサイエンティストで構成されたチームで継続的な分析、モデル構築を可能にする体制を構築し、ECアプリケーション会員数は30万人から100万人に増加している。坂田氏は、「Data Hackなどでスモールスタートするのが、(顧客企業も)満足できる取り組み」と述べ、社内に開発基盤を持たない企業でもデータドリブンができることを強調した。
最後にヤマトホールディングスは、会員数4000万人、法人顧客120万社、18万店舗で扱う宅配便個数が年18億個におよぶデータを分析する「クロネコ・ビックデータ基盤」を用意している。だが、既存システムに限界を感じていたという。データ分析基盤の比較検討した結果、「Azure Synapse Analytics」を採用。運用管理の負荷軽減や顧客需要に応じたクラウド資源の拡張、MLOps(機械学習開発運用)による現場業務の予測精度向上を実現した。また、分析部門を約50人に拡充する予定だという。