紙とハンコに縛られている--金融業界がデジタル化した先に見える未来の姿

國分俊宏 (シトリックス・システムズ・ジャパン)

2021-02-05 06:30

 テレワークが当たり前になりつつある今、さまざまな業界でデジタルトランスフォメーション(DX)が加速しています。

 これまで金融業界のような個人情報を多く取り扱い、「紙」と「ハンコ」による業務文化が根付いている業界は、テレワークは難しいと言われてきました。しかし、世界的なパンデミックを機にその常識は見直され始めています。

 調査会社ITRの「デジタルビジネス動向調査」によると、コロナ対策の最重要課題は「ビジネスのニューノーマル化への対応」と感じている企業が多く、その対策の一つとして「テックネイティブ指向へのシフト」が挙げられています。

 同調査では、アフター/ウィズコロナの時代には、デジタル技術を駆使したビジネス変革が重要課題となり、DXへの経営者のコミットメントが最たる成功要因とされています。

 コロナ禍、テレワークという言葉だけが注目されがちですが、DXはビジネスにさまざまな変化を与えます。今回は、DXが金融業界にもたらす効果をまとめました。

業績を改善できるDX

 デスクトップ仮想化の技術を活用することで、ローカル環境と銀行内の情報処理システムとを論理的に分離させることで、2つの環境間でデータのやり取りは行われない環境の構築が可能です。この環境を適応したタブレット端末を活用することで、より効率的な働き方が実現できます。

 例えば、営業担当者が顧客先に訪問して投資信託などの契約を行う場合、営業担当者が顧客先で銀行内の情報処理システムへ安全にアクセスしたり、契約時に都度帰行して事務手続きを行う必要がなくなったりするなど、電子署名や申請·承認プロセスのワークフローがオンラインで処理できるようになります。その結果、顧客訪問件数が増加し、ソリューション提案が強化され、顧客満足度の向上につながります。

“従業員体験”を改善するDX

 タブレット端末から情報処理システムへ接続し、さまざまなファイルにアクセスできるため、会議ごとに資料を印刷する必要がなくなりペーパーレス化が大幅に進展することで、業務改善にもつながります。

 そして、銀行外での業務利用を常に想定して環境を準備することで、災害やパンデミック時に急遽テレワークが要請された際にも、特別にセキュリティ対策を実施することなく迅速な移行を実現し、企業の機敏性(アジリティ)が向上します。これまで、仕方がないと諦めて危険や不安を感じながら出勤していた従業員は会社を信頼することで従業員エンゲージメントも向上します。

 また、IT運用管理の簡易化はDX時に重要なポイントになります。クライアント環境の集中的な運用管理や、アプリケーションの配布や動作テスト、設定変更、複数の環境パターンの管理と展開などが効率的に確認できることで、長期的なコストパフォーマンスの向上につながります。

金融業界のDXに仮想技術が適切な理由

 従来から企業内のデータに外部から“安全に”アクセスできるツールとしてVPNが活用されてきました。しかし、攻撃が高度化するなか、VPNでは企業の情報を守りきるのは難しくなってきています。

 例えば、VPN経由で企業ネットワークに直接つながるPCがハッキングされていた場合、クリックひとつにより企業ネットワークが攻撃に曝されるという極めて重大なリスクが生じることになります。

 金融業界のように、個人データなどセンシティブなデータを多く保有し高いセキュリティレベルが求められる業界で仮想技術が活用されるのは、個人情報など画面に表示している情報をPC本体にコピーするなどができない仕組みの構築が可能なため、端末の紛失や故障などでデータを脅威に晒すことがないのが理由の一つです。

 あらゆる場所から安全に銀行内の情報処理システムにアクセスできるようになることは、業務効率化と経費削減につながり、電子署名の活用は新たな顧客体験の提供は、銀行の文化を変えるほどの 効率化効果をもたらすことを可能にし、金融業界のニューノーマルとなるでしょう。

國分俊宏(こくぶん・としひろ)
シトリックス・システムズ・ジャパン セールスエンジニアリング本部 金融SEグループ リードシステムズエンジニア
グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセールスとして支援している。現在は、金融グループのリード・システムエンジニアとして、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に紹介している。

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