アドビは2月4日、次世代の顧客体験を支える「Adobe Experience Platoform」の最新機能に関する報道機関向けのオンライン説明会を開催した。
同社 ソリューションコンサルティング本部 マネジャー兼プロダクト エバンジェリストの安西敬介氏はまず、次世代のマーケティングトレンド「Personalization 2.0」に注目すべき理由を説明した。これは、同社が掲げたコンセプトということではなく、Econsultancyの創業者で社長のAshley Friedlein氏のレポートで提唱されたものだという。
基本となる考え方は「シンプルで、直感的でパーソナライズされていることを意識させない」「ユーザー個人のプライバシーを犠牲にすることなく提供され、ユーザー自身が利用されるデータをコントロールできること」「個人を特定するデータを必要とせず、データを機械学習により予測し、コンテクストに応じたリアルタイム性を持ったサービス提供を行なえるようにする」などとなる。
安西氏はまた、Personalization 2.0を実現するための要素として「クロスチャネルからオムニチャネルのコミュニケーション管理」「リアルタイムのプロファイル統合」「属性でなく、興味の管理を実現」「機械学習を利用し、プロファイルの補完」「ユーザー主体のデータガバナンス基盤」といった要素を挙げた。また、Personalization 2.0に向かう背景として、同氏は「Cookielessへの取り組みの動き」「消費者データの保護を実施していく動き」「オムニチャネルコミュニケーション」の3点を指摘している。
Personalization 2.0の基本的なコンセプト
Personalization 2.0を実現するためにシステム側に求められる機能
大きな影響があると考えられるのは、サードパーティーCookieの制限に向けた動きだ。効率的なターゲティング広告を実現するために広く活用されているサードパーティーCookieだが、「ユーザーが知らないところで情報を収集されている」といった批判の声が多いこともあり、主要ウェブブラウザーで規制の動きが始まっている。
マーケティングテクノロジーの提供者はこのトレンドに対応してサードパーティーCookieに代わる有効な手段を提供する必要がある。また、GDPR(欧州の一般データ保護規則)などの個人情報保護の動きも無視できない。こうしたトレンドを踏まえて同氏は、「顧客の解像度を上げる」という考え方を紹介した。
“解像度を上げる”という言葉からは「画像がより鮮明になり、細部までよく見えるようになる」というイメージが思い浮かび、顧客の詳細な個人情報を大量に取得するイメージになるが、同氏が指摘したのは、性別や年齢、住所や氏名、メールアドレスなどを集めても効果的なマーケティング活動には直結しないという点だ。同氏は「誰であるかは必要なく、その人のニーズが分かれば良い。イメージは背景の解像度が上がっている感じ」と説明する。
アドビ ソリューションコンサルティング本部 マネジャー兼プロダクト エバンジェリストの安西敬介氏
その人が何をしたいと考え、何が欲しいと思っているかが分かればターゲティング広告としては十分目的を達成できるということだし、昨今の個人情報保護の考え方とも共存しやすくなる。
また、オムニチャネルの重要性も強調された。単に複数のタッチポイントを用意して顧客が選択できるようにするという「クロスチャネル」(マルチチャネル)にとどまらず、シームレスに統合された体験が提供できるオムニチャネルを実現する必要があるという。
例えば、リアルの店舗でもオンラインでも買い物ができるだけではなく、リアル店舗とオンラインで在庫情報をリアルタイムに連携していたり、オンラインで購入した商品をリアル店舗で受け取れたりするなどの、顧客側がチャネルの使い分けを意識する必要がないようにすることが求められる。それには当然ながらそれを実現するためのデータ基盤が必要になる。
Adobe Experience Platformは、CXM(Customer Experience Management:顧客体験管理)の基盤であり、同社が提供するアプリケーションレイヤーの製品群「Adobe Marketing Cloud」「Adobe Analytics Cloud」「Adobe Advertising Cloud」「Adobe Commerce Cloud」などを支える共通プラットフォームとして提供される。そのため、ユーザーはAdobe Experience Platformを単独で購入するのではなく、アプリケーションレイヤーのAdobe Marketing Cloudなどを導入するとその基盤としてAdobe Experience Platformが“付いてくる”という形になる。
Adobe Experience Cloudの構成。データ基盤となるAdobe Experience Platformの上に共通サービスやアプリケーション製品が実装される
安西氏はAdobe Experience Platformについて「Adobe Experience Cloudの各アプリケーションやサービス群、他社ツールなどと連携し、次世代のCXM基盤として集約、分析、活用していくための次世代CDP(Customer Data Platform:顧客データ基盤)」だと位置付けた。
最後に同氏は、最新のアップデートについても紹介した。まず2020年末にAdobe Experiece Cloudに追加されたOffer Decisioningはチャネルを横断してパーソナライズされたコンテンツを提供する機能で、オムニチャネル実現の取り組みを直接的に支援する機能となる。また、Adobe Experience Platformに追加されたAdobe Experience Platform Launch Server Sideはデータガバナンスに関連する機能強化であり、他社製品/サービスなどとのデータ連係を実現する。サードパーティーCookieの活用が難しくなりつつある中で、Adobe Experience Platformを中核としてさまざまなサードパーティーのマーケティングテクノロジーを連携/活用していくことが可能になるという。
2020年末に追加されたOffer Decisioningの概要
最新のアップデートとして実装されたAdobe Experience Platform Lauch Server Sideのイメージ
ウェブマーケティングの世界は、技術の高度化と規制強化のバランスで刻々と状況が変化しているが、Adobe Experience Cloudとそのデータ基盤となるAdobe Experience Platformは最新状況にいち早く対応し、これからのマーケティングテクノロジーに必要な機能要素を整理して見せたものと位置付けて良さそうだ。