Oracleが、企業と個人を対象とした財務管理における人工知能(AI)利用の意識調査を行い、その結果では、67%が「人間よりもAIやロボットを信じる」と回答した。一方で、企業の財務部門には紙ベースの作業も多く残っており、AI利用はまだまだ普及している段階とはいえない。OracleのERP(統合基幹業務システム)製品マーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるJuergen Lindner氏に、財務管理調査から言える現状、AIをどう活用できるのかについて話を聞いた。
--日本を含む14カ国で9000人を対象に調査を実施しました。得られた結果はどのようなものでしたか。
財務管理とAI、ロボットという調査は初の試みでした。ロボットの定義は広範なもので、スマートなデジタルインターフェース、機械学習アルゴリズムなど、AIとその周辺全てをロボットとしています。
OracleでERP製品マーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるJuergen Lindner氏
結果の一部には驚きました。一般消費者と企業管理職の67%が、財務管理において人間以上にAIとロボットを信頼していることが分かりました。なお、日本では91%で、これは興味深い数字です。また、89%の企業回答者が「ロボットとAIは業務を改善できる」と考えています。
一方で、コロナ禍により財務に関連した不安やストレスが高まっていることも分かりました。企業回答者で、財務に対して不安やストレスを抱えている人は186%増えました。日本の増加率は122%です。
調査から導き出せることとしては、AIやロボットは敵ではないということです。「AIに仕事を奪われる」という恐怖が大きくクローズアップされた時期があります。確かに仕事の内容は変わるでしょう。ですが、いま必要なのはAIをうまく利用することであり、よりスマートに、迅速に、正確な意思決定ができるか、の視点です。
今後3~5年で信頼はさらに深まり、その役割も変わってくるでしょう。
--「信頼する」という回答が多い背景に何があると考えますか。
ユースケースが出てきており、効果を感じているということでしょう。調査では、AI・ロボットが財務の業務改善に役立つ分野として、「詐欺や不正の検出」「請求書の作成」「コスト・利益の分析」などが挙がりました。
--一方で、企業の中にはAIの取り込みが進んでいるとは言えないところもあります。
OracleはAIを組み込んでおり、AIや機械学習と意識することなく使えるようにしていくことで、この問題を解決できると考えています。
そこで重要なのは、クラウドとSaaSモデルです。顧客の使い方から学び、新しい技術や機能強化を3カ月に一度、届けることができます。Oracleは、技術革新に当たって顧客の声を重視しており、80%は顧客の声がベースになっています。
財務業務の中には、付加価値のない業務があります。経理業務の89%が自動化に適しているという調査もあります。
--AIによる財務業務の効率化の例はありますか。
先に挙げた詐欺や不正の検出、財務分析に加え、承認の合理化もAIで効率化できます。出張後の経費精算は社員にとっても経理担当にとっても面倒な作業です。ですが、同じ行き先であれば、大体同じような経費になります。異常をすぐに検出して、インテリジェントなダイアログで解決できます。自宅に戻ることにはレポートが作成されるでしょう。また、サプライヤーの選定でも割引のパターンや所在地などの要素を見て、最適なサプライヤーを推奨するようなユースケースがあります。これらは音声による操作も可能です。
例えば、Oracleはカスタマイズなしに、全く同じ「Oracle Fusion Cloud Applications」を使っています。Oracleの財務部門は現在、四半期を締めてから10日で決算発表をしています。これはS&P 500の企業では最短です。目標はこれを1日に短縮することであり、近いうちに実現できるでしょう。
--部分的なAIでは最大の効果が得られません。多くのプロセスは部門をまたいで行われますが、これに対するOracleのアプローチはどのようなものでしょうか。
Oracleは、2年ほど前から「インテリジェント・プロセス・オートメーション」として、プロセスを自動化することを支援しています。これが可能なのは、Oracleのソフトウェアが全て同じデータベースを土台としたスイートだからです。つまり、データはシームレスに移動できます。これにより、雇用から退職まで、調達から支払いまで、というように財務、人事、調達、サプライチェーンなどをまたいだ自動化が可能です。
自動化をRPA(ロボティックプロセスオートメーション)で実現しようとする企業も多いのですが、RPAは静的であり、機械学習やAIの活用が難しいのです。顧客がRPAを使いたい場合は支援しますが、Oracleのアプリケーションでは、機械学習やAIをスタンドアロンではなく、直接ビジネスプロセスに組み込むことで使いやすくしています。
われわれは、10年ほど前にクラウド時代を見据えてアプリケーションスイート(のコード)を一から書き直しました。面倒な作業でしたが、(クラウド時代の)現在はアドバンテージをもたらす追い風となっています。
--AIや機械学習の導入により、財務担当者のスキルはどのように変わると考えますか。
私自身がMBA(経営学修士)を取得する時に、好きな部分と好きではない部分がありました。Excelをあれこれ操作することやデータ入力は、好きになれなかった部分です。そして、ここは自動化の対象になります。
これにより、スキルセットの開発に時間を割くことができるでしょう。データを分かりやすい言葉にすること、ビジネスアナリスト的な要素など、スキルセットを進化させて、事業部門のビジネスパートナーになるチャンスと考えることができます。