いつ世の中がコロナ禍を乗り越えて平常に戻るのかを予測するのは難しいですが、リモートワークの拡大に向けた動きが長期に渡って続くことに異論はほとんどないでしょう。従って、どうすれば企業内外でのコラボレーションを強化できるのか、絶えず検討を続けることが必要です。
ビデオ通話やチャットツールは一般化しました。しかし、「コラボレーション」が「コミュニケーション」だけにとどまらないことを認識すべきです。大切なのは、事業や業務に関する新しいインサイト(洞察)と従来の経験を融合させ、最善の結果を得ることです。
従業員の分散によりコラボレーション実現のハードルが上がる
従業員が分散して業務を行っている環境下で、新しい共同作業のプロセスを確立することが課題になっています。データがより広範かつ重要な役割を果たさねばならないパンデミックへの対応は、その典型例です。
データに基づく意思決定を行った経験が少ないか、全くない社員もこのような手法を日常業務に取り入れることが求められるようになっています。
実際、Qlikの調査によって、データリテラシーを持つ人の割合は全労働人口の21%にとどまっているにもかかわらず、世界の従業員の3分の2近く(63%)が週に1度以上はデータを用いた意思決定を行っていることが分かっています。新しい環境や絶え間なく変化する環境に適応するために、データを利用する権限を従業員に与えることは、CIO(最高情報責任者)やCDO(最高データ責任者)にとって重大な課題となっています。加えて、誰かがそばについてやり方を教えることができない現在、これを成し遂げるのは容易ではありません。
リアルタイムの最新情報に基づく継続的なインテリジェンスにより即時の行動を促す「アクティブインテリジェンス」の獲得に向けて、データ主導型の意思決定を行う文化を確立する道のりが決して直線的なものでなく、また一人の力でたどり着けるものでもないことは、いろいろな事例を見れば明らかでしょう。「コンピューターがノーと言っているからそれで終わり」、というものではありません。データは結果のみならず、結論に至った思考の道筋をも決定付けます。
困難な課題ではありますが、リモート環境での従業員間のデータコラボレーション文化を育むには、CIOやCDOはいったいどうすればいいのでしょう? 十分な試行を重ねた3つのアプローチを以下に紹介します。
1.共同作業のための「データワークスペース」を構築
多くの企業が、これまで長きに渡ってデータをサイロ化された状態で管理してきました。例えば、営業部門や財務部門は独自の環境でデータを保持しており、部門間で共有することはほとんどなく、ましてコラボレーションが行われることは極めてまれでした。その理由は、これまでのデータプラットフォームには、異なるデータセットを取り込み、実行可能なインサイトを示すためのデータ統合機能が備わっていなかったからです。
単に異なるデータを統合するだけでなく、データ探索ツールの利用は既に容易になっています。データを探索した経路、さらにはそれによってどのようにインサイトがもたされたのかを、各自が記録することが可能です。これまでは、分析のプロセスはこれで十分でしたが、現在は、見直すべきときにきています。
チーム全体の意思決定プロセスをサポートし、アクティブインテリジェンスを実現するために、アナリティクスのパイプラインにコラボレーションを組み込む必要があります。 これが「共有データワークスペース」です。
このアプローチは企業の中だけに限定すべきものではありません。アプリケーションを共有することによって、パートナーやサプライヤーと協力しながらデータに基づいた意思決定を実現し、関係者全員にメリットをもたらすことができます。
例えば、英国のDIY販売企業であるWickesが自社のサプライチェーンを管理するために開発したi-supplyアプリケーションは、塗料メーカーなどのサプライヤーがロックダウン中に最も売り上げを伸ばしている製品を把握するための支援を行うために欠かせないものとなっています。サプライヤーは、限りある生産能力を最も人気のある製品に集中することができ、何より重要なこととして、混乱に直面した顧客に製品を確実に届けることができるようになりました。
一方、ヘルスケアソリューションプロバイダーの米国の医療器具メーカーであるWellSkyが開発したヒートマップは、全米の在宅介護事業者が新型コロナウイルス感染症のホットスポットを追跡して、感染率の上昇しそうな場所を予測し、臨床スタッフのニーズが最も高い場所に医療用個人防護器具(PPE)リソースを配るために欠かせないものとなっています。
2.社内共通語として「データボキャブラリー」を整備
残念ながら「データ」の話は全くわけの分からない人もいます。そのため、インサイトを示す際にはデータの視覚化が極めて重要になってきます。
しかし、異なるデータセットを見るたびに表示方法が変わるとしたらどうでしょう? 不慣れなユーザーに混乱を招くだけでなく、データに基づく意思決定を理解し、説明する能力にも影響を与えかねません。
このような課題を克服するために、英国の金融機関であるNationwide Building Societyは企業全体に共通の「データボキャブラリー」を構築しました。すなわち、意思決定するための情報を視覚化する図表の統一です。同社が開発したVisual Vocabulary Applicationにより、一貫性のある使いやすいフォーマットでインサイトを表示するシンプルなダッシュボードを、各社員が作成できます。データをカテゴリー分類に沿って視覚化し、あらゆるリテラシーレベルの人がアクセスできるようにすることで、誰もがデータを確実に読みこなし、データを使って連携し、コミュニケーションを図ることができます。
3.インサイトを示す課程である「データストーリーテリング」の推奨
物語の最後のページだけを読んで結末を知ったとしても満足感は得られません。結末だけではなく、登場人物がどのように成長し、どういった経緯でそこに至ったかのプロセスが大事であり、だからこそ読んでいて楽しいのです。同じように、データからのインサイトを示す際にも、最も影響力のあるアプローチは結論に至るまでの道のりを示すことです。
優秀な「データストーリーテラー」とは、インサイトを決定するためにたどったデータ分析の課程を語ることができる人です。例えば、米国のNPOであるNamaste Directは、データアナリティクスによりグアテマラの小規模企業に新型コロナウイルス感染症が与える影響を知るためだけでなく、その分析に至った課程を資金提供者に伝えることも重要であることに気付きました。Namaste Directの分析プログラムは、資金提供者へ分析課程を説明する「データストーリーテリング」のためのプレゼンテーションを、データベースから直接作成することができます。
データを巡るコラボレーション文化を育む
企業はウィズコロナの世界で急速に新しい環境への適応を進めています。しかしこれは長距離走です。長期的な視野を持って働き方を変化させるには、ビジネスを確実に前進させるために投資を行うスキルや実践について考える必要があります。
企業全体でデータ主導型文化を確立させることは、たとえ全ての従業員が一カ所に集結したとしても、簡単にできることではありません。ましてリモートワーク拡大の動きによってそれがさらに困難になったことは確かです。
しかし、十分な試行を重ねたこれらの3つのアプローチにより、従業員がどこにいようとも、CIOやCDOは会話および共同の意思決定の中心にデータを置くための支援を行うことができます。