オープンプラットフォームへのオフコンの組み込み
API化を通じたアプリケーションリソースの開発、メンテナンス面でのモダナイゼーションを紹介したが、運用面でのモダナイゼーションも重要である。この検討において避けられないのがクラウドサービスであり、これらの最新技術を組み込むことがDXやモダナイゼーションにおけるプラットフォームに関連する必要事項となる。
現在のクラウドサービスの運用環境は、顧客情報リソースを仮想マシンの技術で実現していた時代を経て、コンテナ活用が主流となってきている。技術者ではない方は、家具や電化製品付の賃貸マンションの部屋のカタログを想像してほしい。自身のライフスタイル、ワークスタイルに合わせて部屋のパターンを選択し、借りて、すぐ生活を始めることができる。この部屋がコンテナであり、マンションが物理サーバーにあたる。仮想マシンにあたる各階は何部屋借りて、どういう間取りにするか、家具や電化製品は何を買うか、などから始めなくても良いイメージだ。
また、以前仮想マシン技術がそうであったのと同じくコンテナもオンプレミスの運用基盤としての活用が始まっている。もちろん、コンテナの基盤技術はLinuxであり、IBM iではコンテナ化された機能は稼働できない。しかし、IBM iはOSやリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)が融合された基盤ソフトウェアで、ハードウェアはPower Systemsであることを見逃してはならない。Power Systemsでは「Red Hat」「Suse」がLinux OSとして実装可能である。これらは「Docker」などのコンテナ基盤や、「Kubernetes」などのオーケストレーション基盤が利用できる。
IBM i、Red HatとSuseは同じ筐体のPower Systemsにおける区画として同居でき、分散環境で起こるさまざまなオーバーヘッドを軽減できる。IBM i内のリソースはコンテナ化できないが、それらがAPI化されていれば、同じ筐体内のLinuxのコンテナにAPIを組み合わせたアプリケーションは構築可能である。
IBM iの外で、他のオンプレミスサーバーやクラウドに配置転換する、バックアップ環境や負荷分散環境を構築するなど、さまざまなオープン系のメリットを享受できるようになる。また、Power Systemsのクラウドサービス化も進んでいる。前述のLinuxリソースと合わせてIBM i内のリソースとしてのオンプレミスではない環境への配置も、柔軟にできるようになってきている。
ホワイトボックス化はオフコンではなくなるということ
ここに至るまでの記事の流れを整理しよう。
第1回では、DX対応にはレガシーアプリケーションを機能ごとに評価する必要があるが、その効率化には解析ツールが有用であることを紹介した。
第2回で具体的な解析ツールを用いたアプリケーション評価の項目と方法を、第3回で評価結果として不要とされたレガシーアプリケーション資産の安全な廃止方法(スリム化)や冗長アプリケーションの分割方法(部品化)を、第4回でスリム化や部品化されたレガシーアプリケーションを簡易にREST API化などのオープンシステムに対応する方法を紹介した。
そして、今回のIBM iアプリケーションの更なる進化の方法につながる。ブラックボックス化したレガシーアプリケーションの状況を関係者に対してホワイトボックス化し、評価後、最適化、オープンシステムに組み込めるホワイトボックスに昇華させる方法を一連の連載としてお送りさせていただいたものである。この流れはオフコンアプリケーションからの脱却を意味する。
本連載は今回で最終回となるが、DX対応と称してPower SystemsをPCサーバーに変えるだけ、RPG言語をJavaに変換するだけなど、オフコンのレガシーシステムをほぼそのまま別の環境のレガシーシステムに置き換えるような旧来型の手法は、DXに逆行することであることを理解いただけたと思う。
本シリーズの内容がDX、モダナイゼーションをお考えのIBM iユーザーの一助になることを願い、締めくくりとさせていただきたい。
- 阿野 幸裕(あの ゆきひろ)
- ジーアールソリューションズ
- モダナイゼーション事業部長
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大学卒業後、トーメン情報システムズで、IBMメインフレーム、ミッドレンジコンピューター、UNIXなどのシステム開発を経験後、1995年よりSybaseやSASなどの外資系ソフトベンダーにてプリセールスエンジニアとして従事。
2020年4月から、その経験を生かし、ジーアールソリューションズに入社。以来、同社が独占販売権を持つカナダFresche solution社の製品を中核としたモダナイゼーション事業に参画している。