産業機械メーカーの荏原製作所(以下、荏原)は、2030年をターゲットに長期ビジョン「E-Vision2030」を2020年から掲げる。その中で、2022年を目標とする3カ年の中期経営計画「E-Plan2022」では、経営情報の可視化、グローバルでの業務標準化、柔軟で拡張性のある情報システムアーキテクチャーの構築に取り組む。コロナ禍に直面する今、どのように対応しているのだろうか。
グローバル標準化を実現させるCoE
荏原は、ポンプ、コンプレッサ・タービン、冷熱、環境プラント、精密・電子の5つの事業を手掛ける。世界的に持続可能な社会の実現がテーマとなる中で、例えば、温室効果ガスの削減や安全な水資源の提供といった課題解決に必要な技術の多くが関係する。E-Vision2030で目指すグローバル一体の経営体制は、この世界的なテーマに対応するためだ。荏原では2030年のあるべき姿を定め、その実現に至るまでに必要な取り組みを中期経営計画で進める。
執行役 情報通信統括部長の小和瀬浩之氏は、「経営戦略とIT戦略はまさに一体であり、言葉だけでなく実行しなければなりません。各国に全ての機能を持ち、緩やかな連邦運営を行うインターナショナル経営から世界中のグループ会社があたかも一つの会社のように一体となって運営されるグローバル経営に変わるべく、IT戦略でもカンパニーやリージョンごとに異なっていた業務やシステム、インフラの標準化を図り、変革を進めています。欧米の製造が大規模なIT投資によりグローバル企業となったように、日本の製造もグローバル化しなければなりません」と話す。

「E-Vision2030」と「E-Plan2022」におけるIT戦略の位置付け(荏原製作所資料より引用)
E-Plan2022の3カ年でなすべき項目の1つに、「経営スピードの迅速化と効率的なグローバルオペレーションの基盤強化」があり、荏原のIT戦略が直結している。
その一環として、クラウドベースのシステムを生かす。メールシステムでは、Google Workspace(2017年~)、基幹系業務システムではSAP S/4HANA(2020年2月~)、人事システムではSAP Success Factors(2020年6月~)、調達購買システムではSAP Ariba(2020年9月~)、経費管理システムではSAP Concur(2021年5月~)を採用、移行を進めている。また、これらシステムをグローバルで利用するネットワークインフラでは、2019年にAkamai TechnologiesのEnterprise Application Access(EAA)を導入した。
これらITの取り組みを進める体制では、IT側と開発や調達、生産、販売、財務といった業務側の約180人のメンバーで構成されるCoE(Center of Excellence)を組成。従来業務の洗い出しや整理と標準化、システムの検討、整備、導入などに当たっている。
「業務プロセスやシステムがカンパニーごとに異なっていても、実は似たような部分が少なくありません。組織の垣根を超えてグローバルで標準化と展開を図るには、国内外のメンバーが協働できるCoEが重要です。社長(代表執行役社長の浅見正男氏)を中心とするステアリングコミッティーとも連携して活動し、ITの維持に要していたコストを下げ、国際会計基準への対応といった投資に配分できるようになります」(小和瀬氏)