ITのリモートツールは、コンピューターの遠隔サポートなどで広く利用されているが、さまざまな現場業務を効率化する手段にもなる。リモートツールを手がけるTeamViewer ジャパンが開催した説明会で、ユーザーの環境シミュレーション研究所とさくらインターネットが水資源に関する研究調査での実例を発表した。
リモートツール用途の1つとして水資源分野での取り組みが紹介された
説明会は、TeamViewerが同社製品の活用により二酸化炭素の排出抑制などの環境保護や、現場業務の効率化を図る取り組みを紹介したもの。同社がドイツの調査機関DFGCと行った分析では、例えば、現場の保守作業のための自動車での移動をリモートツールに置き換えた場合における二酸化炭素の排出削減効果といった、54のユースシナリオや216のユーザープロファイル、また、1000人以上へのアンケートから、二酸化炭素に換算して年間で3700万トン、ユーザー当たり年間4万トンの排出を回避できるとする。
ビジネス開発部長の小宮崇博氏は、「日本の場合はディーゼルトラック26万7000台に相当する97万トンの排出を回避できる」とし、環境面の効果だけでなく、現場業務の効率化も図れるとした。例えば、ドイツの海運会社mareSystemsは、船に搭載する機器が故障した場合に、従来は技術者をヘリコプターに乗せて海上まで派遣していたが、これをリモートツールに置き換えたことでその負担が軽減された。機材交換など物理的な作業を必要とする場合は、技術者がリモートツールで船員に作業方法を指示することで対処可能になるという。
環境シミュレーション研究所は、海洋分野に関するシステム開発や情報処理サービスなどを手がける。同社では、漁船に搭載して漁場の位置情報や操業時間、漁場などのデータを収集する「GPSデータロガー」を遠隔から保守するためにリモートツールを導入した。GPSデータロガーのデータは、携帯通信網を経由して水資源研究に取り組む自治体や教育機関などに提供されており、機器のトラブルによる影響範囲は大きい。
代表取締役の小平佳延氏は、「全国の漁港や漁船に機器があり、離島や遠隔地も多い。現場で保守や修理を行っているが、遠隔で機器の状態が分かるようになり、問題が起きる前に対処できるようになった。コロナ禍で人の移動が大きく制限される現在は、漁業関係者からも評価されている」と話した。
環境シミュレーション研究所の「GPSデータロガー」と組み合わせた例
同社は、日本財団の海底探査技術開発プロジェクト(通称:DeSET PROJECT)に参加しているといい、世界の海底地形の作図にもGPSデータロガーを利用している。小平氏は、「船舶や漁獲といったデータをクラウド経由でデータセンターに送信する。こうしたところでさくらインターネットとも連携していく」と述べた。
さくらインターネットは、内部組織のさくらインターネット研究所でデバイスや時空間などのデータを活用する研究開発に取り組み、その中で水中調査を行っている。上級研究員の松本直人氏は、「魚群探知機といったさまざまなデバイスからのデータを連係させた可視化技術の研究開発を進めている。コロナ禍で現場作業が制約を受けているが、リモートツールを活用して対応している」と説明した。
その一例として松本氏は、東京都大田区にある洗足池公園の洗足池の地形を高精細に可視化する実験の様子を紹介した。同社では、身近に購入できる市販の魚群探知機器を活用して地形を測定したという。
洗足池は、家族連れがボートで遊覧できるといった憩いの場になっている都会の都市の公園だが、池の水は濁っており目視での地形の測定などは非常に難しい。実験では、例えば、水深が1メートルほど、透明度が20センチ未満の場所で455kHの音波を池の底面に照射し、反射されたデータを収集、処理し、リモートでPCに投影。こうして可視化した結果、池の底の地形が高精細に再現され、数センチ程度のくぼみに水生生物が生息している様子などの詳しい状況が判明した。
さくらインターネットが汎用機器やリモートツールで可視化した洗足池(東京都大田区)の地形の様子
松本氏は、「リモートツールにより、水中の環境をリアルタイムに可視化して調査研究に役立てることができる。(同社の主力事業の)データセンターの先にあるデータ活用の支援につなげたい」と話した。
TeamViewer ジャパンの小宮氏は、「もちろんリモートツール自体が温室効果ガスを減らすようなわけではないが、リモートツールのさまざまな活用を通じて結果的に環境保護などに貢献できる点を紹介したい」と語った。
TeamViewer ジャパンの小宮崇博氏、環境シミュレーション研究所の小平佳延氏、さくらインターネットの松本直人氏(左から)