「問題は、戦略が量子コンピューティング資産を生み出すことに限定したものか、それともエコシステム全体が含まれているかだ」と同氏は言う。「冷却技術や量子解析、ソフトウェア、産業用アプリケーションなど、考慮すべき重要な領域はバリューチェーン全体に渡って存在する。戦略には、教育や知的財産の創出から、企業の設立、資金調達、業界のパートナーシップまで、さまざまな領域の競争力をどう向上させるかという問題に対する答えが含まれていなければならない」
欧州委員会のロードマップでは、量子技術に関する目標以外にも、EUが今後10年間に目指すいくつかの挑戦的なマイルストーンが掲げられている。それらの目標には、EUが国際的な舞台で主導的な立場を確立するためのビジョンが伴っている。
この文書によれば、新型コロナウイルスの危機は、デジタル分野における欧州の「脆弱性」を浮き彫りにしたという。コロナ禍によって、EUはEU圏外のテクノロジーに対する依存を強めた。欧州委員会は例えば、2030年までに世界市場における欧州のマイクロプロセッサーなどの生産シェアを増やし、現在の欧州半導体産業のシェアである10%から、その倍の20%にまで到達することを目標としている。
同様に、欧州委員会は欧州で生成されたデータの多くがEU圏外で保存され、処理されている点を強調し、EUは独自のクラウドインフラとキャパシティを強化する必要があるとしている。欧州委員会は、2030年までに1万台のセキュアなエッジノードがEUで展開され、ネットワークのエッジでデータを処理できる環境を実現することを目指している。
クラウド技術は、以前からEUの懸案の1つだった。EUは、MicrosoftやAmazon Web Services(AWS)などをはじめとする米国のハイパースケールプロバイダーの支配力に対抗するために、GAIA-X」と呼ばれるクラウド関連プロジェクトを立ち上げているが、その見通しは明るくないとの見方もある。
欧州委員会の新しいロードマップは、国際的な競争が激しくなる中、EUが依然として積極的にEUのデジタル主権を得ようとしていることを示している。欧州委員会委員のThierry Breton氏は、「これがコロナ禍後の世界で私たちが強靱なデジタル主権を確立した欧州を形作るための方法であり、これが欧州の『デジタル化の10年間(Digital Decade)』だ」と述べている。
2021年末に公式に「Digital Compass」計画が採択される前に、今後数カ月の間、ロードマップで示された目標について盛んに議論が行われるだろう。その後欧州委員会は、EUの進捗状況を把握するために、各加盟国の目標達成状況の年次評価を行うことを提案するとみられる。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。