黒田氏も自社の取り組みを披露した。
「われわれはデジタル化の段階にあり、扱う商品も社員の皆さんがオフィスに出社して使われるものが中心。オフィスがなくなるのはわれわれの事業形態としても受け入れがたいところだった。だが、この変化を受け入れてこその事業継続。出社率の上限を50%に定めて十分な空間を設けることで、(コロナ禍に対する)衛生状態や自由な働き方を提案。センシングデータ(を活用したモニタリングデータを可視化し、提示すること)で社員自身が一番安全な空間を選べるような仕組みを作りつつある」
黒田氏がコロナ禍による徹底的な変化を好機と捉えているか、と尋ねると川邊氏は以下のように回答した。
「ITやインターネットは個人を支援するツールやサービスという側面が大きい。だが、日本社会における同調圧力から適切な使い方がなされてこなかった。コロナ禍自体は不幸なことだが、働き方が自由になったのは不幸中の幸い。その結果として個々の多様性が生じ、多様性同士がぶつかり合うことで技術革新が生まれる。これまで日本人が不得手だった技術革新の基盤を(この1年で)獲得しつつある」
テーマが「残されたオフィス」に移ると川邊氏はオフィス不要論者ではないと明言しつつ、個々の従業員によって異なるオフィス需要が生じていることを紹介した。
「もっともパフォーマンスを引き出せる場所で働けばよい。その最大多数がオフィスであることに変化はない。ただ、選択肢が増えることで『何でもオフィス』から『(この作業は)自宅がよい』と目的特化型に変わっていく。弊社では(家庭状況や事情から)オフィスの方がパフォーマンスを引き出せる社員、オフィスでブレインストーミングし、新しいアイデアに結びつけるために出社する社員が少なくない。面白いのが社員食堂。若い開発者が多いため、(自宅勤務では自ら)調理するかコンビニエンスストアで購入、もしくは食べない社員もいる。社員食堂について『栄養のあるご飯を作らなくても食べられた』という意見もあった」
だが、移動時間の削減に伴う自宅勤務が生産性向上につながると「家をオフィス風にしたくなる」(川邊氏)のは誰しもが同じだ。端的に言えば、各種設備を自宅に持ち込んでオフィスと同等の利便性を欲してしまう。
川邊氏はオフィスと自宅の役割を入れ替えるよう提案した。
「コクヨに期待したいのは、パフォーマンスを向上させるオフィス製品を家庭内で実現する方法。自分は腰痛持ちで、オフィスはスタンディングデスクを使用しているものの自宅では難しい。今後のオフィスは(コクヨの品川ライブオフィスのように多様な働き方を実現する)カフェのように、逆に自宅はオフィスのようになる。そのトレンドの中心にコクヨがいる」
最後に黒田氏がデジタル活用の助言を求めたところ、川邊氏はこう提言した。
「前述のとおり(従業員)共通の作業空間はオンライン化し、パフォーマンス向上につながる。ただ、実現か否かは業務のデジタル化。組織の業務デジタル化は急務だ。もう1つはよい意味での公私混同。日頃からさまざまなデジタルツールを個人で使用し、当然ながらデータの公私は分別しつつも業務利用の提案などにつなげていく。われわれは技術の進化と人の価値観の変化で、これからも働き方は変わっていく」