Saleforce.com傘下でAPIソリューションのMuleSoftは、先頃開催した記者説明会で、日本市場における事業方針を発表した。企業でデータ活用への期待が高まる中、APIの現状や今後の展望などをセールスフォース・ドットコム MuleSoft Japan 常務執行役員の小枝逸人氏に聞いた。
セールスフォース・ドットコム MuleSoft Japan 常務執行役員の小枝逸人氏
APIは、異なるシステムやサービス間で容易にデータを連携させるためのテクノロジーとして、ITの世界では身近になった。小枝氏は、「APIという言葉は、既にCIO(最高情報責任者)には浸透している。現在は変化に対応可能なビジネスシステムのためのテクノロジーとして、ビジネスで利用していく点が注目されるようになった」と述べる。
APIのビジネス利用が進んでいる領域の1つが金融だろう。APIは、FinTechを象徴するような言葉の1つにもなり、金融分野の伝統的な企業も新規参入するベンチャーやスタートアップもAPIで相互につながり、消費者向けから法人向けに至るまで多様な金融サービスの創出を支えるテクノロジーとしておなじみになった。
しかし、データ活用の世界で見れば、APIが普及するのは、まだ金融など一部の領域でしかないのが実情だろう。「長らくユーザー企業が独自に、あるいはITベンダーが開発した仕組みによってデータをためてきた。だが、データを“アンロック”しなければ、データを企業のビジネスに生かすのは難しい」と小枝氏は指摘する。同社顧客の多くはデータ活用で先進的な取り組みをしている企業あるいはイノベーターのような企業だという。例えば、カインズが基幹システムとSalesforce Service CloudをMuleSoftのAPIで連携させるなど、既存システムのAPI化で自社のアーキテクチャーの再構築するケースが多いとしている。
そこにコロナ禍が到来したことで、先述した環境変化に強いビジネスのためのシステムへの必要性がこれまでよりも広い領域で高まりだした。APIの役割がフォーカスされ、2007年創業のMuleSoftにとっても大きな勝機が到来し始めた状況といえるだろう。
小枝氏は、APIでシステムやサービス、データがつながる概念がインターネット的だと表現する。誰もがインターネットに接続し利用する“民主化”によってインターネットのエコシステム(生態系)が作られたように、誰もがAPIを作成、利用可能な民主化を果たすことでデータ活用のエコシステムを実現することが同社の目指す方向性だという。
Saleforce.comがMuleSoftを買収したのは2018年だが、小枝氏は同社のAPI基盤(Anypoint Platform)が従前からニュートラルであると説明する。Salesforce Customer 360などAPIでつながる先としてのSalesforceとの密なインテグレーションは買収によるところだが、基盤としてはAPIの作成、公開、配布、管理、セキュリティなどの機能を一元的に提供する。「クラウドプラットフォーマーなどが提供するAPI基盤は、そこでのサービスを利用したりそこにデータをため込んだりするためにある一方、われわれはニュートラルな基盤でありどこでも利用していける」(小枝氏)
小枝氏は、テクノロジーとしてのAPIがもたらした成果を「ファイアウォールの内側に入らなくてもシステムやデータの連携を可能にしたこと」と話す。現在までのAPIのメインユーザーはCIOなどのITプロフェッショナルだ。さまざまなビジネス活用というAPI利用の次なるフェーズでは、CDO(最高データ/デジタル責任者)といったビジネスユーザーへの展開が目標になるという。ここでは、国内23社のパートナーとの連携を軸に進める。「顧客にとってのビジネスのゴールを明確にし、われわれとパートナーもそのゴールを共有しながら顧客とともにゴールに向けて歩んでいく」と小枝氏。
このフェーズでのAPIは、ある意味で裏方の存在となってくる。小枝氏は、「ビジネス側のユーザーがAPIというテクノロジーの言葉を知るのは難しいだろう。的確な表現は難しいが、APIの意義は、断絶しているビジネスプロセスに連動性をもたらし、ビジネスの変化や成長、スピード、コスト最適などのメリットを手にすること。日本を知るパートナーと世界のベストプラクティスを日本に最適な形で提案していきたい」と話す。