クッキーレス時代に備えよ--アドビ、「Real-time CDP」を発表

末岡洋子

2021-04-30 06:00

 主要なウェブブラウザーがサードパーティーのクッキー(Cookie)を制御する方向にある。サードパーティーのCookieはマーケティングに活用されてきたが、Adobeのデジタルエクスペリエンス担当プロダクトマネジメントディレクターを務めるAsa Whillock氏は、「今後はCookieレス時代に向けて戦略を考える必要がある」という。4月27日にオンライン開催された年次イベント「Adobe Summit」に合わせて、“Cookieレス”というトレンドとAdobeの今後の製品戦略を同氏が説明した。

AdobeのAsa Whillock氏。サードパーティーCookieは徐々になくなると見ており、顧客に対して早めにファーストパーティーデータ中心の戦略を確立するよう促しているという
AdobeのAsa Whillock氏。サードパーティーCookieは徐々になくなると見ており、顧客に対して早めにファーストパーティーデータ中心の戦略を確立するよう促しているという

 これまでマーケティング担当は、サードパーティーのCookieを使うことでターゲティング広告などの効果を高めてきた。だが、その状況が変わりつつある。Appleは、SafariブラウザーでITP(Intelligent Tracking Prevention)としてトラッキング防止機能を搭載し、GoogleもChromeブラウザーでサードパーティーCookieの提供を将来停止すると発表している。Appleは、さらにiPhoneなどiOS端末の端末識別IDであるIDFA(Identifier for Advertisers)のポリシーを変更し、取得のためにはユーザーの承諾が必要になる。背景には、消費者のデータプライバシーへの関心の高まりがある。

 サードパーティーのCookieに依存したマーケティング手法を実践することが難しくなるため、現場は混乱しているようだ。Whillock氏は、「Cookieレスが自社や自社顧客にどのような影響を与えるのかを理解しているマーケティング担当はわずか36%」というEconsultancyのデータを紹介する。

 「Adobe Experience Cloud」としてデジタルマーケティング技術を提供しているAdobeも、この流れに対応する。「状況は変わっているが、マーケティング担当がやらなければならないことは変わっていない。それは『未知のビジターをロイヤル顧客に変えること』だ」とWhillock氏。では、Cookieレス時代に向けて、同社はどのようにマーケティング担当者を支援するのか――。

 Whillock氏はまず、「ファーストパーティーデータを中心にする必要がある」として、ファーストパーティーデータの取得と活用を進めるための基盤となる「Adobe Real-time Customer Data Platform(CDP)」を紹介した。

 Real-time CDPは、これまでのAdobeのCDPのアップデートとしてイベントで発表された新製品。顧客が提供に合意したメールアドレス、電話番号のようなID情報、自社サイト上での行動データ、メディアデータを活用する基盤となる。

「Adobe Real-time Customer Data Platform(CDP)」の概要 「Adobe Real-time Customer Data Platform(CDP)」の概要
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 見込み客にメディア、ウェブサイトやアプリ、実店舗、コールセンター、チャットボットなどの体験をナビゲーションしながら最終的に顧客になるが、どのパターンが最もロイヤル顧客になるのか――ここでAdobeは、「Cost Per Authentication(許諾獲得単価)」という指標を提唱する。「ファーストパーティーデータの情報を生かしながらできるだけ多くの顧客から同意を獲得できるかが重要になる」とWhillock氏は説明する。

「Cost Per Authentication」の概要 「Cost Per Authentication」の概要
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 また、Real-time CDPと合わせてこれを支援する機能が「Adobe Customer Journey Analytics」と「Adobe Target」になる。

 Customer Journey Analyticsは、オムニチャネルでのカスタマージャーニーを分析する。ウェブサイトやアプリなど全ての顧客接点からのデータを集約して、リアルタイムに分析できる。分析担当者は、最も顧客になる人のパターンといった洞察を得ることができる。

 「例えば、ゲーム会社が見込み客の同意を踏まえてゲームをプレイするまでの時間を短縮させるに当たり、どのようなチャネルを渡ってプレイに至っているのかを識別できれば、より多くのリソースを成功しているチャネルに割くことができる」(Whillcok氏)

 Adobe Targetはパーソナライズのための機能。まずReal-Time CDPのハブ機能でファーストパーティーデータを集約して顧客像を浮き彫りにする。購入履歴や登録した電子メール、電話番号などのファーストパーティーデータとメデイアから提供されるメディアデータを組み合わせて顧客プロファイルを構築すると、Adobe Targetがこの情報をもとにパーソナライズした体験を提供する。また、過去のデータから見込み客のプロファイルを構築し、Adobe Targetと併用してどの瞬間に同意を求めるべきか、といったリーチの拡大も可能という。

 Whillock氏は、例として、ガーデニングのウェブサイトを訪問した顧客に対して、探している道具をすぐに提案できればコンバージョンできる可能性が高くなるが、適切なオファーをどうやって最適な瞬間に出すか――それで、スコアリングとして訪問者のクリックなどを集計する。

 見込み顧客との接点やデータ取得機会が減る中で、機械学習を利用して全ての訪問者についてクリックが発生するたびにスコアリングし、訪問者にとって最適と思われる瞬間に登録を促すという流れだ。「見込み客がどのようなジャーニーを経て顧客になるのか、顧客に情報を求めるのに適切なタイミングはいつか、この2つが重要だ」とWhillock氏。

 既に構築している自社のナレッジをAdobeのプラットフォームで動かすこともできるという。

 この他に、Real-time CDPには、新しい顧客を獲得するための「Segment Match」「類似(Look-alike)セグメント」という新機能も加わった。Segment Matchは、共通顧客を持つ企業同士がパートナーシップを通じて、自社の持つファーストパーティーデータをより完全なものにできる機能で、類似セグメントは既知の顧客と似た属性を持つ顧客を特定してその顧客グループに追加できる。これにより、広告主やパブリッシャーは似たような顧客を探すことができるという。

「Segment Match」機能 「Segment Match」機能
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 最後にWhillock氏は、クッキーレス時代に向けたAdobeの方針として、(1)顧客のプライバシーの尊重と保護、(2)透明性が高く顧客の管理下に置かれた責任のあるデータ運用、(3)プライバシーを尊重した顧客体験が最終的に収益最大化につながる――とした。

 Real-time CDPはB2B(法人間取引)版の提供を開始した。Segment Match、類似セグメントについては、一部顧客が早期顧客としてテスト中で、2021年中に一般提供にするという。

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