リテールテックが創出する「偶然の出会い」--トライアル長沼店を取材 - 6/13

大場みのり (編集部)

2021-05-21 07:00

 千葉市稲毛区のJR稲毛駅からバスに17分ほど乗り、民家や飲食店が点在する町並みをしばらく歩くと、ひときわ大きな建物が見える。正面まで回ると、青地に白で「TRIAL」と書かれた巨大な看板が目に入る。これが、「スーパーセンタートライアル長沼店」(以下、長沼店)だ。今回は、先進的なリテールテックを活用し、挑戦を続ける同店を取材した。

長沼店の外観。場所柄、車で買い物をする人が多いという
長沼店の外観。場所柄、車で買い物をする人が多いという

 「トライアル」は、食料品や衣料品、住居関連商品が一つのフロアに集結しているスーパーセンター。トライアルカンパニーが九州地方を中心に263店舗展開している。

 同社は店舗内に、セルフレジ機能を搭載した買い物カート「スマートショッピングカート」や、人や棚の動きを人工知能(AI)で検知する「リテールAIカメラ」などを設置。これらのIoT機器で収集されるデータをシステム基盤「MD-Link」経由で約260社のメーカーや卸売業者と共有している。IoT機器やシステムは、グループ企業のRetail AIが開発している。

 中でも首都圏に位置し、関東地方の店舗でIoT機器が最も多く導入されている長沼店は、リテールAIプラットフォームプロジェクト「リアイル」の実証実験にも活用されている。同プロジェクトでは、AIのデータ分析から得られる気付きを共有して事業に生かすことで、流通業全体の構造改革や購買体験の向上を目指している。トライアルカンパニーのほか、卸売業者、流通業者、食品/飲料メーカー、冷蔵ショーケースメーカーが参画している。

 取材では、トライアルカンパニー マーケティング部 課長の堀井氏が店内のIoT機器について説明してくれた。スマートショッピングカートはセルフレジ機能に加え、全国263店舗の購買データから同じ商品を購入した顧客があわせ買いした商品の中でクーポンがあるものを表示する。クーポンを配布することで、お得な買い物のほか、来店客がなじみのない商品と出会うことを狙っている。

 来店客とメーカー双方にメリットがある仕組みだが、中には一度始めて中止したレコメンドもあるという。例えば以前、精肉部門などにビーコンを設置して同カートを持った来店客が近づくと、鶏肉を使ったレシピやそれに合うアルコール飲料をカートの画面上でレコメンドしていた。だが効果を検証したところ、買い物体験の向上にはあまり寄与していないと分かり、現在は行っていない。

 「われわれが良かれと思って始めたことでも、お客さまは求めていないことがあり、そうしたギャップを埋めることに試行錯誤しています。店舗にIoTを入れるのは、まだ始まったばかり。どこかにエキスパートがいるわけではなく、われわれがエキスパートになろうとしているところ。だからこそ、リアイルの参加企業らと答えを模索しています」と堀井氏は述べた。

 取材では、来店客にスマートショッピングカートの使用感を聞いた。60代の女性は、「カートにはすぐ慣れた。最初はチャージの仕方に迷ったが、その後は便利で使っている。熱帯魚を飼っているので、クーポンが適用される餌を買ったことがある」と話した。

 40代の女性は、「最初はスキャンするのを忘れていて、後で気付いてまとめてやった。自分に合った商品が勧められている感覚は正直ない。勧められたものを買うというよりは、クーポンがある商品の一覧から自分が欲しいもののカテゴリーを確認している」という。

 多くの来店客になじみのない商品を試してもらうには、さらなる試行錯誤が必要だと思われる。最後に堀井氏は、「今の時代、効率だけを求めたらEC(電子商取引)で済みます。実店舗が追求すべきなのは、楽しさやわくわく感。お客さまが店を訪れて、商品を吟味しながら店内を回る時の楽しさを最大化していきたいです」と語った。

 取材では、筆者が実際に買い物を行った。同社が目指す、便利でエンターテインメント性のあるショッピングを体験した。

試しにツナ缶をスキャンした。スキャナーは取り外してハンドスキャナーにもなる。これにより、箱に入ったアルコール飲料など重い商品を持ち上げなくて済む

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