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「日本発ソフトに必要なのは売った夢を形にすること」--サンブリッジのアレン・マイナー氏

田中克己

2021-05-10 07:00

 海外市場で通用する日本発のソフトウェアがなかなか生まれない。そもそも海外市場に挑戦するソフトウェア会社が少ない。富士通やNEC、日立製作所などの大手IT企業も自社開発より、欧米のソフトウェアをベースとするSI(システム開発)事業に軸足を移している。国内ソフトウェア会社を積極的に応援、支援してこなかった。そうした中で、Oracleやsalesforce.com(SFDC)など米有力ソフトウェア会社の日本進出に携わったサンブリッジのAllen Miner会長兼グループCEO(最高経営責任者)は、「一転びではなく、七転び八起きだ」と、日本のソフトウェア会社に何回でも挑戦することを説く。1回や2回で諦めるなということだ。

 電子情報技術産業協会(JEITA)のソリューションサービス市場規模調査によると、この10年のソフトウェア市場規模は7000億~8000億円の間を推移する横ばい状態。国内のIT市場は10兆円超といわれているので、ソフトウェアの比重は7~8%程度になる。ただし、ソフトウェアビジネスの多くはSIに組み込む部品の数字とみられる。大手IT企業は受託開発と運用保守から収益を稼ぎ出すビジネスモデルになっているからだ。もちろん会計ソフトやグループウェアなどで健闘するソフトウェア会社はある。タクシー広告などを展開する総務/人事向けソフトウェア会社もあるが、国内市場をターゲットにするものがほとんどだろう。

 ビジネスソフトウェアの輸出入統計もない。JEITAと情報サービス産業協会、コンピュータソフトウェア協会の3団体が実施していたソフトウェアの輸出入統計調査は2000年で終っている。ちなみに2000年の輸出は90億円、輸入は9189億円と完全な輸入超過だ。おそらく、その差はどんどん広がり、ソフトウェアの輸出はゼロに近づいていることだろう。調査を止めたのは、その現実を明らかにしたくなかったからなのかもしれない。

サンブリッジのAllen Miner会長兼グループCEO
サンブリッジのAllen Miner会長兼グループCEO

 輸出ゼロになる理由を考えてみた。1つは、多くのソフトウェア会社が売り上げ100億円未満の中小企業で、海外市場を開拓する資金力やマーケティング力が乏しいこと。国内市場で手一杯ということだ。サイボウズなど海外法人を設置するソフトウェア会社はあるものの、大きな実績を獲得する段階には至っていない。もう1つは、富士通やNEC、日立など大手IT企業が自社ソフトウェアの開発に力を入れなくなったこと。実はミドルウェアからERP(統合基幹業務システム)、グループウェアなどのアプリの開発、販売に取り組んだものの、10年近く前から話題にも上らなくなっている。例えば、自社製ERPは、国内の中堅中小企業向けにほそぼそと販売している程度で、欧米製ERPをベースにしたSIを主力にする。

 こうした欧米ソフトへの依存は、OSからミドルウェア、ERPなどのアプリ、クラウド基盤、クラウドサービスへと広がり、大手IT企業はシステム連携やデータ移行、さらにオンプレミスのクラウド移行などで稼ぐようになる。「顧客の課題解決や顧客のニーズに応えるため」と彼らは答えるだろう。間違ってはないのだろうが、ニーズと掛け離れたものを生み出せなくなる恐れがある。顧客ニーズや世の中のトレンドを先取りできないということだ。米国市場におけるIBMやHPなど伝統的な大手IT企業が伸び悩む一方で、Amazon Web Services(AWS)などクラウドサービスプロバイダーの存在感が増していることからも見えるだろう。

 Miner氏は、Siebel Systems(2006年にOracleが買収)とSFDCのCRM(顧客関係管理)ソフト市場における競争を例に自説を展開してくれる。想像すると、当時のSiebelはSFDCのソフトウェアを大手企業が導入するような性能や機能に達していないと思っていた。技術力にも自信を持つSiebelは、SFDCをライバルとして意識もしなかっただろう。だが、Siebelのソフトウェアは導入期間が長いので、現場を束ねる部長や課長は一日も早く、営業日報などから正確な情報を把握したい。そこに月額10万円、20万円という部長判断で決裁し、すぐに使えるSFDCが現れる。「見やすいダッシュボードで、管理職が自分の予算内で決められる」などといったことが口コミで広がり、ユーザーが増えていく。

 Siebelが稼働したらすぐに切り替えるつもりでも、現場はSFDCを使い続ける。性能がどんどん改善するからでもある。「メインフレームユーザーの認めるクオリティーを出せない」と無視していたら、相手は徐々に改良してユーザーの求めるものになっていく。「バージョン1で完成ではない。どんなものにするのかといった夢を売り、それを実現する」(Miner氏)。将来に対するコミットメント、つまり売った夢を形にすること。マーケティング力でもある。

 大手IT企業の弱点を突いて、隙間の新しい商品を創り出す。例えば、コストが高い、機能が豊富、操作が複雑などだ。最初は中小企業が受け入れるが、大手企業へとじわじわと広がっていく。数億円、数十億円を使ってシステムを構築し、5年、10年も保守を続けてきた大手企業は、IT活用を抜本的に見直す時期にもある。

 Miner氏には、もう1つ気になることがある。米国市場に挑戦し、1回失敗したら諦めてしまうこと。しかも、「米国はすごい」となり依存する。だが、Miner氏はソフトウェア会社の経営者らに3回でも4回でも挑むことを説く。日本市場開拓に取り組んだ自身の経験からだ。

 大手IT企業もこのままで終わるはずはない。ソフトウェア会社との協業も考えるだろうが、Miner氏は非効率にこそ、チャンスがあるという。多少の無駄が技術者らのクリエイティビティーを高め、面白い商品の創出につながるということ。同じものを作り続けて効率ばかりを追求していたら、品種のバラエティーをなくし、クリエイティビティーを失う。「質の高い仕事には、職人的なマインドがある。これで良いと割り切らず、自分の技術を磨き続け、完成度の高いものにする」。Miner氏はソフトウェア会社の米国市場開拓でどんな支援するのか。その日を楽しみにする。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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