アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は5月11~12日に同社の顧客向けイベント「AWS Summit Online」を開催。同イベントでは、基調講演や特別講演のほか、AWSが提供するサービスの最新情報やパートナー企業のソリューションなどを取り上げるブレイクアウトセッションが150以上用意されている。
初日の基調講演で同社は、世界中で急速かつ非連続的な変化が続く中、テクノロジーがビジネスにもたらす影響は一層大きくなっているとし、顧客事例を紹介するとともに、それを支えるAWSの技術や知見をアピールした。
講演に登壇した代表取締役社長の長崎忠雄氏は「イノベーションの起こし方は企業や組織によってさまざまだが、共通点として『トライアンドエラーを繰り返しながら、失敗のコストを下げて成功の確度を高めていく』ということがある。いろんなことに挑戦する中で、成功の種を見つけることが重要」と語った。
AWSジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏
紹介された顧客事例の一つに、ディー・エヌ・エー(DeNA)におけるAWSクラウドへの移行がある。同社は4月末、全サービスのクラウド移行を完了した。
同社が展開しているサービスの数は約300に上り、内容もリアルタイム性が重要なエンターテインメント分野から、高いセキュリティが求められるヘルスケア分野まで多岐にわたる。一日当たりのリクエスト数は約50億と膨大で、ログデータの量は最低3000台のサーバーが必要なペタバイト級だという。
DeNAは、2018年6月に全サービスのクラウド移行を決定。その背景について、代表取締役会長の南場智子氏は「『エンジニアにもっと創造的な仕事に集中してほしい』という思いがあった。特にインフラのエンジニアは従来、サーバーの購入手続きなど、煩雑な仕事に時間と労力を取られていた」と説明した。
この取り組みに伴い、QCD(Quality、Cost、Deliveryの観点で構成されるビジネスの評価指標)でクラウド移行を考えた際、「Quality」と「Delivery」は問題ないとした一方、「Cost」に関してはこれまでオンプレミス環境で同社のエンジニアが工夫を凝らしてコストを削減してきた分、クラウドに移行するとコストが高くなってしまうという課題があった。同社のオンプレミス環境は、機器の買い換えやメンテナンスなどあらゆる費用を入れても、想定されるAWSクラウドのコストの約半分だったという。
DeNAは、「クラウド環境でもエンジニアの技術と工夫があれば同等のコストを実現できる」という仮説を実現するため、既にクラウドで運用しているサービスで検証した。
例えば、ステートレスサーバーとしてSpot Instanceを徹底的に活用し、コストを60%削減した。また、Auto ScalingとDeNA独自のスケーリング技術を全サービスの60%に適応し、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)のサーバーコストを30%削減した。その結果、AWSクラウドのコストを約半分にすることができ、オンプレミスと同等のコストを実現した。