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NEC Xと米Alchemist Acceleratorが提携--技術起点の新事業創出を強化

大河原克行

2021-05-18 13:21

 NEC子会社で新事業創出を推進するNEC Xは5月18日、米国シリコンバレーのアクセラレーターのAlchemist Acceleratorとパートナーシップ契約を締結したことを発表した。またNEC Xは、今回のパートナーシップを通じて独自のテクノロジーインキュベーションプログラム「NECアクセラレータープログラム(CAP)」を強化し、2025年度までに10件以上の事業化を目指すとした。

 NEC Xは、2018年7月にシリコンバレーのエコシステムを活用したインキュベーション特化型事業開発会社として設立され、これまでに23件のスタートアップ候補となるプロジェクトにCAPを活用し、3件を事業化している。President CEO(最高経営責任者)の井原成人氏は、「NECの先端技術を核としたオープンイノベーションによる事業化を行う。研究成果を外に出していくアウトバウンド型オープンイノベーションを行う点が、シリコンバレーの多くのインキュベーターとは異なる」と説明する。

NEC X President CEOの井原成人氏
NEC X President CEOの井原成人氏

 具体的には、NECの研究者や技術者が技術面から事業アイデアをバックアップし、NEC Xの持つ100人以上の客員起業家のほか、起業や資金調達の経験者、企業内での事業開発経験者、デザインリサーチャーなどが顧客の発見や実証を行い、事業化をリードする。経験豊富なコーチや業界知識、人脈が豊富なメンター、アドバイザーがプログラムに深く関与し、NEC Xのメンバーとともにチームをサポートする。さらに、シリコンバレーのネットワークを活用し、いち早く顧客価値を創造することを目指しているという。

 協業するAlchemist Acceleratorは、2013年に設立され、アーリーステージ(シード段階)の法人間ビジネス向けのスタートアップ企業の事業化を支援する。有力企業や投資家と連携し、北米や欧州を中心に事業の立ち上げで多くの実績を持つ。同社が展開する「Alchemist Accelerator Program」では年間3回の募集を行い、1回当たり最大25社を選抜するが、選抜率は3%未満と低い。選ばれると、コーチやメンターによる6カ月間の指導が提供されるほか、3万6000ドルの活動資金を支援する。独自のネットワークを活用した顧客へのアプローチや資金調達のサポートも行う。

 今回のパートナーシップを通じてNEC Xは、Alchemist Acceleratorが持つ企業インキュベーションのノウハウやリソースを活用し、CAPを強化する。Alchemist Acceleratorの起業家や企業、投資家、メンターなどのネットワークにもアクセスする。さらに、NEC XのCAPを卒業したスタートアップ企業が、さらなる事業成長と投資機会の獲得に向けて、Alchemist Acceleratorの支援を受けられる。

パートナーシップの概要
パートナーシップの概要

 Alchemist Acceleratorは、スタートアップ支援の実績が豊富なコーチやメンター、企業インキュベーションのノウハウを活用した「Customer Discovery/Customer Validation(CD/CV=顧客発見/顧客実証)」プログラム、3万人以上の優秀な起業家などの人的ネットワーク、資金調達方法などのスタートアップにおけるデザインノウハウを提供するほか、Alchemist Accelerator Programの活用といったスピンアウト支援を、NEC Xを通じて提供する。

 NEC XのCAPは、ビジネスとテクノロジーに精通した客員起業家(EIR)にNECの技術を紹介する。EIRがビジネスアイデアを提案し、その中から優れた案件を選出、顧客発見や顧客実証などのプロセスを経て事業化を支援しているが、今後はAlchemist Acceleratorの支援を受けることで、その活動を強化する。

 井原氏によれば、CAPでは顧客発見のステージにおいて2~3カ月をかけ、50人以上(平均80人、最大100人)の想定される顧客を対象にヒリアングを行い、課題を抽出。これにより当初のビジネスシナリオとは異なったヒントや課題が見え、それをベースにシナリオを軌道修正する。ここで見極めができなければプロジェクトは中止され、生存率は3分の1という。次のステージの顧客実証は、6~9カ月をかけてプロトタイプを開発し、複数の顧客の声をもとに製品化につなげる。工数削減、売り上げの向上といった顧客の利益につながる確証を得られれば事業化する。事業化の形は、独立会社やNEC自らの事業化、パートナーとのジョイントベンチャー化などの選択肢があるという。

 「技術起点ながら顧客の課題や困り事を知り、NECの技術がどう貢献するのかなど見極めに注力している。シリコンバレーで先端に顧客と会話し、プロトタイプを使ってもらいながら製品やサービスを市場ニーズに合わせたものに作り込み、事業の可能性を高めていく」(井原氏)

 また同社は、NECの先端技術とシリコンバレーの知見を掛け合わせたオープンイノベーションを促進するのための場として「Tech Showcase」を開催する。約30人の起業家をはじめベンチャーキャピタルやエンジェル投資家を含め約100人が参加し、NECの研究者が説明を行ったという。

今回のパートナーシップの先行事例として、2021年1月に「Metabob」設立した。CAPによりインキュベーション活動を行い、2020年12月にAlchemist Accelerator Programに参画、現在は資金調達活動を行っている。Metabobは、NECのコード解析AI(人工知能)を応用して、ソフトウェア開発者向けのコードレビューやデバッグ支援ツールを提供する。ソフトウェアコードの構造を可視化し、機械学習モデルによってバグを迅速に特定、コード最適化のための修正例を提案する。これまでに10社以上が有償およびトライアルで導入し、2000人以上の有償利用の個人ユーザーがいるという。NetAppが提供するディープテックのエコシステムを活用して、企業向けSaaSに特化したソリューションの強化に取り組んでいるところだ。

 「プログラムのバグ取り工数を平均で60%削減するという実験データが出ている。継続利用率は80%台という高い評価を得ている。受注額は月3000万円程度で、倍々で成長している」(井原氏)とし、「Metabobなどの実績から、Alchemist AcceleratorがNECの技術やNEC Xの技術発のインキュベーションを評価したことが今回のパートナーシップにつながっている」(同)という。

 NEC XのCAPはこれまで5回実施され、2021年5月までに技術シードの段階で50件以上が検討された。その中で顧客発見ステージに23件が進み、顧客実証は8件、そこからMetabob、INGUO.IO、GAZIRUの3件が事業化している。

 INGUO.IOは、2019年11月に米国ニューヨークで設立され、NECが開発した因果分析技術を活用する。これまでは仮説ベースや手作業で作成していた因果の構造を観測データから自動生成し、分析者の主観によらない因果関係の分析が可能だ。例えば、コンシューマー向けの商品が売れた理由や売れなかった理由を消費者行動などから発見できるという。Verizonなどに販売実績があり、2020年10月には、日本へ逆輸入する形で、NECが因果分析ソリューションとして国内提供を開始し、マクロミルなどに導入実績がある。今後3年間に世界で25億円の売上げを目指しているという。

 一方のGAZIRUは、2020年4月に日本で設立され、NECが開発した物体指紋認証技術を用いた個体識別サービスを提供する。流通業や製造業を中心に導入が進み、ブランド品のトレーザビリティーなどに活用されているという。数十社が導入検討やトライアルをしており、日本のダッドウェイがエルゴベビー・ベビーキャリアの偽造品対策に利用しているとのことだ。

 井原氏は、「これまでの3年間で3社を事業化につなげたことで、技術起点のインキュベーションの基本機能を実証できたと考えている。CAPの強化により事業化率の向上を目指し、質の高い新事業を創出したい。NEC Xが創造した事業を拡大し、NECの社会価値創造につなげ、企業発の新事業インキュベーションの新しいモデルにチャレンジしたい」と述べた。

 NECは、オープンイノベーションの事業開発を推進しており、NEC X以外に、データ分析の自動化事業をカーブアウトしたdotDataや、事業会社や金融、アカデミア分野の6社による共創型研究開発企業の「BIRD INITIATIVE」の設立。カゴメとの戦略パートナーシップによる農業ICTプラットフォーム「CropScope」も提供するほか、ベンチャーとの協業やクラウドファンディングを活用したスマートウェルネス分野への展開を行う。AI創薬分野では、バイオテクノロジー企業のBostonGeneへの出資やOncoImmunityの買収を通じた共同治験などを行っている。

 NEC 執行役員の中島輝行氏は、NECの長い歴史において技術力による発展とともに、技術への執着が課題でもあったとし、技術を完璧な製品に仕立て上げようとすることで何年もの時間がかかり、結果的に製品化時には技術の鮮度が落ちてしまうことが多かったと振り返る。

NEC 執行役員の中島輝行氏
NEC 執行役員の中島輝行氏

 このため、「dotDataでは、資本市場から資金を呼び込み、スピーディーな事業開発を実現できた。この成功体験から一定の仕組み、仕掛けによって事業を輩出していくことを目的にNEC Xを設立した。NEC本体から切り離すことでNEC X自らがスピーディーな判断ができる体制を構築している」と説明した。

 また、CAPを運用するために、キャピタルゲインで得た資金を還流させていく再生産の仕組みを目指しているおり、戦略的な協業関係を持ちながらNECグループの事業シナジーを生み出すことも狙っているという。「キャピタルゲインとシナジーの両方の出口を目指しながら取り組んでいく」と述べた。

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