日本マイクロソフトは、2018年事業年度から産業分野別にデジタルトランスフォーメーション(DX)施策を支援する「インダストリーイノベーション」戦略を展開している。5月18日に開催した説明会では、この取り組みをゲーム産業にも本格化する方針を明らかにした。
同社は、2020年度からの注力領域の1つとしてゲーム産業を掲げていた。ゲーム&エンターテイメント営業本部長の米倉規通氏は、2019年からゲームエンターテイメント業界専門の営業組織を編成していると説明し、「ゲーム産業は右肩上がりで世界でも20兆円に達する市場。日本は米国、中国に続く世界第3位の市場規模を誇る」と、これを注力分野とする理由を明かした。
現在のゲーム産業について同社は、「既存システムの老朽化」「消費行動の変化」「ビジネス環境の変化」という3つの課題を抱えていると見る。
「既存システムの老朽化」は、社内で利用するシステムが開発者の退職などによりブラックボックス化しながらも使い続ける弊害を指す。「消費行動の変化」は、ゲームがコミュニケーション手段へと変化して多様な楽しみ方がなされていることになる。「ビジネス環境の変化」はゲームの歴史を見てもアーケードゲームから据え置き型の家庭用ゲーム機が主流だったところへ携帯型ゲーム機が登場し、(現在では)スマートフォンが巨大なゲームプラットフォーム化するビジネス環境の変化に追従しなければならないことだという。
米倉氏は、ゲーム開発者やゲーム開発企業の支援、クラウドプラットフォーマーとしての役割を踏まえて、「われわれはゲーム産業に対しても『このピンチをチャンスに変えていける』ように、最大限の支援させていただく」との方向性を明示した。
同社はゲーム産業に対し、「働き方改革支援」「先端技術による開発者支援」「先端技術による開発者支援」「ゲーム産業の裾野を広げる支援」の4つを提示する。
「働き方改革支援」では、バンダイナムコスタジオが日本マイクロソフトのソリューションを全面採用した実績がある。同社代表取締役社長の内山大輔氏は、「コロナ禍でクリエイターの出社率が約10%にまで低下し、2つのDX施策を推し進めた。コンピューターが担うデータ加工は一部導入が進み、データを配置してビルドパイプラインをクラウド上に再構築し、既に人の手が空き始めている。もう1つのクリエイティブな部分はVPNを通じた開発環境を用意しているが完全ではない。開発環境のスケーリングは柔軟だが、コスト増につながる。コストを削減するブレイクスルーをマイクロソフトに期待したい」と、クラウド開発環境の利点と課題を紹介した。
バンダイナムコスタジオは、オンラインコミュニケーション基盤でMicrosoft Teamsを利用している。マイクロソフトによれは、Teamsの全世界における1日当たりの利用者数は1億4500万人を突破(2021年3月時点)する。日経225企業の利用率も1年で10%増の94%に達し、従業員500人以上のゲーム販売企業・開発企業のMicrosoft Teams導入率は、2年前から3倍となる60%にまで増加した(いずれも2021年4月時点)。導入企業としては、この他にコナミやセガサミー、レベルファイブなどが並ぶ。
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「先端技術による開発者支援」としては、Microsoftの研究開発部門のMicrosoft Researchとゲーム開発部門のXbox Game Studiosの連携をアピールした。(Microsoft Asia Apps & Infra - Japan, Global Black Belt Technical Specialistの下田純也氏は、「『Forza Mortorsport』ではフォトグラメトリーやレーザースキャンによるレースコースを再現し、『Minecraft』も、AI(人工知能)学習環境を構築してイノベーション創造の土壌を作り出し、Microsoft Researchの『Project Malmo』『MineRL』といった研究結果も導入している」と述べた。
また、「Microsoft Flight Simulator」でもBing Mapを活用した3Dモデルや実際の気象データによる気象シミュレーションを取り込んでおり、管制塔との通信音声もAzure Cognitive Servicesで再現しているという。2021年2月には、AI&ゲーム関連の研究発表の「AI and Gaming Research Summit」、同4月にはゲーム開発技術を発表する「Game Stack Live 2021」といったイベントを開催し、ゲーム業界への施策に取り組む。
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先述したスマホゲーム市場の台頭でマイクロソフトは、ゲーム産業の裾野を広げる支援として、従来のハードウェアゲーム機を核としてコンテンツを提供するコンソール中心のゲームビジネスから、Microsoft Azureのクラウドなどを生かしたユーザー中心へのシフトを挙げる「ライトゲームユーザーを含めると、30億人ともいわれるユーザーを中心に据えることで、どこでも誰とでも好みのデバイスで好きなゲームを遊べる環境これを用意しようと考えている」(米倉氏)
同社のDX推進支援ビジネスでは、営業部門も業種別に用意するが、「横連携を意識することによりクロスインダストリーで相互発展を目指す。社内でも『ゲーム開発企業へ新規ビジネスの相談をしたい』という話が増えている」(米倉氏)という。
その他にもスタートアップ企業の支援に注力し、その一環としてゲーム開発企業に特化したスタートアップ支援「ID@Azure」を夏から開始する。「詳細は未定だが、マイクロソフト製品・サービスを使用できるプランで、資金に不安のある(請負)企業の参入ハードルを下げられる」(米倉氏)と説明している。
Game Stack Live 2021で発表した「ID@Azure」。ゲーム開発や運用、拡張にMicrosoft Azureを利用できるという