米連邦準備制度理事会(FRB)のJerome Powell議長は米国時間5月20日、動画と声明を公開し、FRBが仮想通貨への取り組みを強化する方針であることや、将来的には独自のデジタル通貨を発行する可能性すらあることを明らかにした。
Powell氏は、仮想通貨に関する研究をさらに進めるとともに、FRBとして「米国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する可能性に特に焦点を絞りながら、急速に進化するテクノロジーがデジタル決済に及ぼす影響を探る」討議資料を2021年夏に公表すると述べた。
同氏はステーブルコイン(市場価値をドルなど外部の基準に連動させる仮想通貨)の利用について、最終的には「決済の効率化、決済フローの迅速化、エンドユーザーのコスト削減」の手段になり得るとの見解を示した。
一方、ステーブルコインが抱えるリスクも挙げ、「物理的な通貨や銀行口座の預金など、これまでの決済手段と同じように保護」されるとは限らないとして、慎重な姿勢を示した。
このようなリスクがあるものの、FRBは中央銀行として、一般市民が利用できるCBDCを発行する可能性を模索しているとPowell氏は述べた。
「われわれは潜在的なCBDCが、現金や商業銀行の預金など現在の民間部門におけるデジタル形式のドルを代替するのではなく、補完できることが重要だと考えている。CBDCの設計は、通貨政策、財政の安定、消費者保護、法律、プライバシーをめぐる重要な問題を提起することになり、慎重な検討と分析が必要になるだろう。一般市民や議員からの意見集約もその一環だ」(Powell氏)
同氏によると、ステーブルコインの利用が拡大する中、FRBはすでにさまざまな規制や監視の枠組みを検討しているという。
公式のCBDCを発行した国はないが、多くの国がそのコンセプトについて試験的なプログラムや調査を開始している。イングランド銀行は何年もこのアイデアに取り組んできており、スウェーデン、ロシア、シンガポール、中国、タイ、カナダ、ベネズエラ、ウルグアイはそれぞれ段階は異なるものの、独自のデジタル通貨をテストしている。
仮想通貨とITの専門家であるJeff Steuart氏は、Powell氏の発言のタイミングについて、中国が2021年に入り独自のCBDCであるデジタル人民元(e-CNY)の実証実験の対象地域を拡大したことに起因するとみている。同氏によると、中央銀行が発行するデジタル通貨によって、発行者はこのシステムに参加している人々の間における富の移転のタイミングと分配をかつてないほどにコントロールできるようになるという。
「具体的に言えば、中国やその他の大国がデジタル通貨の業界での地位を獲得し、米国に先んじてこれを支配するのではないかという恐怖が中心にあった。米国はこの可能性により、強い懸念を抱いたのかもしれない」(同氏)
Steuart氏は、中国が対外援助に大金を投じており、それをデジタル人民元の形に移行すれば、米ドルは最終的に基軸通貨としての地位を奪われることになるかもしれないとも述べた。FRBのデジタル通貨への欲求を支えているこうした地政学的な駆け引きの他にも、FRBはデジタル通貨によって、システムにおける「価値」の量や、それを保有する者、資金移動の速さをコントロールできるようになるという。
しかし、Steuart氏によると、このようなシステムは現在トレードや投資の対象となっているビットコインやイーサリアムのような仮想通貨とは正反対だという。投資の対象となる仮想通貨は、政府が通貨の発行や価値をコントロールできないようにするための非中央集権的なシステムだと同氏は話す。
Powell氏は今回の声明の中で、ステーブルコインの利用増を受け、適切な規制と監視の枠組みを重視する必要があると述べ、それには「銀行や投資会社、および他の金融仲介業者に適用される従来の規制に当てはまらない、民間の決済関連のイノベーター」に注意を払うことも含まれるとした。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。