クラウドインフラ管理などのオープンソースソフトウェア(OSS)群を開発する米HashiCorpは5月27日、日本市場での事業を拡大させると表明した。サイバーセキュリティ分野の「ゼロトラスト」概念に基づく製品展開とパートナーエコシステムの増強により、企業顧客を増加させていく。
同社は、2012年に当時大学生だったMitchell Hashimoto氏とArmon Dadgar氏が創業。現在は約1300人の従業員を抱え、顧客はGlobal 2000に含まれる300社以上という。日本市場では2018年にHashiCorp Japanを設立、ネットワールドやラックなどがパートナーとなりビジネスを展開してきたが、日本法人自体は少人数体制だった。2020年末にHPEやOracle、Pivotal、VMwareで要職を歴任した花尾和成氏がカントリーマネージャーに就任し、今回の事業拡大に取り組む体制づくりを進めてきた。
HashiCorp CEOのDave McJannet氏
この日に記者会見したCEO(最高経営責任者)のDave McJannet氏は、「HashiCorpという社名より製品の方が有名だ」と切り出した。同社が手掛けるOSSとしては、コードベースでITインフラを管理する「Terraform」や仮想マシンイメージ作成・管理の「Packer」が、クラウド環境などで広く利用されている。この他に、認証・認可情報管理の「Vault」や、動的なネットワークの構成・管理を行う「Consol」、コンテナー管理の「Nomad」などがある。
各種ソフトウェアとソリューションの位置付け
McJannet氏は、同社の事業拡大を担うために2018年に着任したという。企業のクラウド利用が進み、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloudなどのプロバイダーを組み合わせるマルチクラウド化も広がるが、同氏は運用やセキュリティ、ネットワーク、アプリケーションのデプロイなどにおいてプロバイダーごとにサービスが異なる複雑性が企業ユーザーの課題だと指摘する。そこで、OSS群を組み合わせで一貫性を確保し標準化を図るソリューションを提供し、大企業顧客などの獲得につなげることで、事業を成長させてきたという。
日本市場の事業拡大について花尾氏は、企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれ、ITの観点でクラウドの活用やアジャイル開発、DevOps、CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)などのモダンな環境や手法の利用が注目される一方、内製化などに多くの企業が取り組むには難しく、パートナーの存在が不可欠だとする。特にセキュリティ対策が喫緊の需要であり、花尾氏は「ゼロトラスト」の概念を中心とするソリューションの展開とパートナー体制の強化により、ビジネスを成長させていくと表明した。
HashiCorp Japan カントリーマネージャーの花尾和成氏
ゼロトラストは、IT環境へのユーザーの接続やIT環境内での行動を信用せず、常に監視して不審な兆候に対応することで安全を確保するというサイバーセキュリティの考え方になる。これまで企業のセキュリティ対策は、基本的にインターネット空間と社内のIT環境の境目を起点に手段を講じて内部の安全を確保する「境界防御」の考え方だった。しかし、社外にあるクラウド環境やテレワークによる自宅環境など社外の利用も増え、「境界防御」の考え方ではサイバー攻撃などに対応しづらくなる恐れがある。そこで、ゼロトラストの考え方に基づく対策手法に企業の関心が高まっている。
花尾氏は、例えば、機密データはVaultによって暗号化やトークン化、アクセス制御などよる保護を適用してデータベースに格納したり、Consolによってネットワークの管理・監視したりするほか、権限管理の「Boundary」を用いたシステム管理者への一時的な特権の払い出しや削除、証跡管理を行うことで、ゼロトラストセキュリティの構成要素の多くをカバーできると説明した。
「ゼロトラスト」でカバーする要素とソフトウェア
パートナー体制では、クラウド事業者やディストリビューター、認定パートナー、リセールパートナーを拡充し、ゼロトラスト関連とTerraformをウェブ系企業や通信事業者、先進的な大企業へ訴求することで顧客基盤を強化する。ユーザーコミュニティーも立ち上げるなどエコシステムを確立させていくとした。
また花尾氏は、同社の知名度向上も事業拡大につながるとし、広告宣伝を含むマーケティング活動を強化するほか、ウェブサイトや技術関連資料(ホワイトペーパー)の日本語化と提供なども進めていくと述べた。
国内パートナーの体制