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Salesforce Live: Japan

IT人材が不足する日本でDXをどう進めるか--官民学のトップが議論

末岡洋子

2021-06-03 08:28

 企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるに当たって避けられない課題が人材だ。「デジタル人材がいない」という悲鳴があちらこちらで聞かれるが、事態は改善するどころか、深刻化するという見方が多い。例えば、経済産業省では2030年に最大79万人のIT人材が不足すると予測している。

 セールスフォース・ドットコムが6月1~4日にオンライン開催する「Salesforce Live: Japan」のキーノートでは、代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG) 執行役専務 グループ CDIO(最高デジタル・情報責任者)の谷崎勝教氏、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏、三重県知事の鈴木英敬氏、東京大学 大学院工学系研究科 松尾豊教授が登壇し、IT人材をテーマに対談した。モデレーターはフリーアナウンサーの望月理恵氏が務めた。

セールスフォースの小出氏、日本IBMの山口氏、三井住友FGの谷崎氏、モデレーターのの望月理恵氏(左から)
セールスフォースの小出氏、日本IBMの山口氏、三井住友FGの谷崎氏、モデレーターのの望月理恵氏(左から)

社内でエンジニアを抱えたいが……

 東京大学の松尾教授は、日本ディープラーニング協会の理事長として、人材育成にも取り組んでいる。日本のIT人材について松尾教授は「遅れている」と述べる。背景の一つに、これまでの日本企業の典型的構造である年功序列型によって、急激な改革が進みにくいという土壌があると指摘する。事業に責任を持ち、長期的な行動を取れる経営者が少ないこともあり、「例えば、小売業でデータを活用するという動きはある。だが、(レジすらない無人決済の)Amazon Goのようなものはあまり生まれない」と松尾教授は指摘する。

東京大学 大学院の松尾豊教授
東京大学 大学院の松尾豊教授

 民間企業として、デジタル変革とデジタル革新の2つを推進しているSMFGの谷崎氏も、IT人材の需要と供給のアンバランスを指摘する。さらには、「日本の事業会社のほとんどが社内にITエンジニアを持たず、外部のシステムインテグレーターに依存している。人材需要に対してどのような供給体制を整備するかは、複雑な課題になっている」と続けた。

 SMFGでは、資源配分などの理由から社内にITエンジニアを抱えることができなかったというが、「米国の金融機関のように、エンジニアを社内に抱える体制が望ましかった」(谷崎氏)。しかし、新卒入社の社員を育成するには、時間的にも難しく、「やはり外部人材に頼らざるを得ない」とジレンマを見せた。

 なお、キーノートの前半セッションにリモート出演した鈴木知事は、同県で「デジタル社会推進局」を立ち上げている。都道府県初の常勤CDO(最高デジタル責任者)を公募したことも話題になったが、市町村・国・民間から50人が集まりスタートしたという。行政では、「デジタル技術を活用して社会課題を解決する人材」「デジタルを使って利便性の高い行政サービスを開発する人材」の大きく2種類の人材が求められると鈴木知事。人材不足という問題に取り組むべく、2020年度からスマート人材の育成コースを設け、若手職員を中心に公募し、漁業や農業従事者とともに社会課題を解決するプロジェクトを進めているそうだ。

三重県知事の鈴木英敬氏
三重県知事の鈴木英敬氏

求めるのは技術とビジネス、両方の知識

 民間企業が求めるIT人材はどのようなものか。SMFGの谷崎氏は、「デジタルとビジネスの人材」という。何のためのDXであり、何のためのデジタル革新なのかを突き詰めると、「AI(人工知能)ができる人、ブロックチェーンができる人――など領域ごとに人材が必要というのではない。新しいサービスや新しいビジネスを生み出すことができる人」(谷崎氏)と考えるからだ。「単に技術のみではだめ。ビジネスを創出できる人間がデジタルのことを理解していなければ、新しいサービスにはつながらない」(同)と指摘した。

 セールスフォースの小出氏も、「DXの究極の目的はより良い社会にすることだ。それを実現可能な人材をどれだけ育成できるかにフォーカスすべきだと考えている」とし、具体的には、「実際に社会に役立つテクノロジーを理解し、それを実装するというところに落とし込むことができる人材」と定義した。

 そこで一つの解になりそうなのが、多様性だ。高度経済成長期に重宝された同質性とは違って、個性を磨き、互いに相手の個性を認め合い、尊敬し合う人材が融合することで、より大きなものにつながる――と小出氏は述べた。その上で、「日本は、状況への対応といった、(起きている)変化に対応することはやってきたが、変化を生み出す、作り出すという部分が10~20年遅れている。そこを育てることがチャレンジ」との見解を述べた。

 社員向けの取り組みにも話が及んだ。SMFGでは、社員教育として「デジタルユニバーシティ」を導入、あらゆる社員が参加し、デジタルについて学ぶことができるという。前年は年間2万5000人が受講したとのことだ。

 テクノロジープロバイダーである日本IBMでも、社員にはデジタルスキルを習得してもらっているという。全社員がクラウド環境で開発するスキル、AIを使いこなすスキルなどだという。「どんなスキルが社員に必要かを考えた時に、顧客にはAIやブロックチェーンの活用などを提案しているが、提案する本人はやってみたことがないことに気がついた」(山口氏)と背景を明かす。営業だけでなく人事やマーケティングなどの部署でも学んでおり、部長や役員、そして山口氏自身も勉強しているとのこと。AIを活用して、その人のスキルレベルや業務内容、担当する顧客などに合わせて最適なコースが学べるという点も興味深い。

 日本IBMは、外部向けに、社員が高校に出向いてデジタルを教える「P-TECH」を展開している。山口氏は、「社員が刺激を受けて帰ってくる」と述べ、同社にとって、いい流れにつながっていることを明かした。

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