コミュニティーから得られる洞察が強み--ビジネス支出管理のCoupaが国内展開を加速

阿久津良和

2021-06-07 07:00

 米Coupa Softwareとジャパン・クラウド・コンピューティングは2021年4月9日、日本での合弁会社として「Coupa株式会社」の設立を発表した。Coupa Softwareはサプライヤーからの購買や、請求書の処理など一連の購買・費用管理業務を支援するビジネス支出管理(Business Spend Management:BSM)SaaSとして存在感を示している。

 Coupa 代表取締役社長に就任した小関貴志氏は「BSMは成長市場の1つ。これまで社外や顧客ばかりを見ていたが、社内に目を向ければ投資領域の選択や節約によって、企業利益は変化する。(自社サービスは)ITの文脈で顧客に価値をダイレクトに提供できる」と語った。

Coupa 代表取締役社長の小関貴志氏
Coupa 代表取締役社長の小関貴志氏

 BSMは調達コストの削減や効率性向上、コンプライアンス順守などを目的とした支出管理手法である。一見すると統合基幹業務システム(ERP)の業務領域に近いが、小関氏はBSMを「顧客関係管理(CRM)、ERP、人的資本管理(HCM)に続く第4のカテゴリー」だと定義付ける。Coupaのサービスは特定の業界業種に特化せず、「モノを買う/調達するは全ての顧客に共通する活動に対して、一連のプロセスをコンプライアンス高く取り組める。一見するとERPに類似しているが、大半の顧客は(Coupaを)ERPと接続して使用している」(同氏)という。

 ある大手製造業の購買部門は4000人の社員を抱えつつも、「詳細を聞くとペーパーワーク」(小関氏)と散々な状況に対してCoupaは現状の可視化、次に部分最適化、そして組織全体の最適化を図る。後は浮いたコストを経営層の判断で投資分野を決めればよい。Coupaの顧客について、同氏は「大手企業に限らず、売上高250億円を下回る中堅企業でも使われている。ただ、(Coupaが)適しているのはグローバル展開し、多くの事業所を持つ企業。製品を大量に仕入れる利点や可視化による改善の余地がある企業で多く使われている」と説明する。

 国内のBSM領域では「SAP Ariba」、経費精算なら「SAP Concur」を連想しがちだが、Coupaは「細かく比較すれば機能的な相違点はありつつも、われわれのアピールポイントはクラウドベンダー。後発だからこそ使い勝手もよく、(現場の)皆さんが使ってくれる。使い勝手が悪くて(現場に)使われないのであれば、情報の集約や一元管理もままならない」(小関氏)と強調した。

 さらに、「コミュニティーインテリジェンス」が顧客に提供できる価値だと小関氏は合わせて強調する。これは、自社のBSM成熟度によって享受できる価値の段階的向上を示す指数だが、その一要素として同社は四半期ごとに「BSI(ビジネス支出インデックス)」を提供している。

 例えば、「自社はコロナ禍の影響で元の水準まで復帰できていないが、業界全体はどうなっているのか」「業界は4.2時間(で購買処理を終えているが)、自社は7時間。どこかで承認プロセスがボトルネックになっている」など、業種を俯瞰(ふかん)した数値を示すことで顧客支援につなげている。なお、BSIデータはCoupaにも組み込まれ、進言/提案などに用いられているという。

 国内で認知度は高まりつつあるBSMだが、導入に至ったケースはまだそれほど多くない。その点を小関氏に尋ねると、「ポイントは2つ。1つはわれわれの海外展開哲学として、一気に全世界に広めないようにしている。日本なら商習慣や準拠すべき法規制もあり、ローカライズのレベル感が異なる。だからこそ国内で先進的な顧客に使っていただき、声をいただいて、製品に反映させるサイクルを丁寧に取り組み、タイミングを計っている最中だ。もう1つは、バックオフィスはフロントオフィスと比べて、自社開発が根強いように感じる。(既存の)ERPを導入する場合も、海外から数年遅れで広がり、その上でビジネス展開や最適化を考えていた」と指摘する。

 全世界でCoupaを採用する企業は2000社を超えるが、国内では三菱重工グループ、住商グローバル・ロジスティクス、日本通運、日立物流の4社が導入企業として公表されている。この他にも社名を出せないサプライチェーン系企業や飲料系企業などの顧客企業も含まれるという。トヨタ自動車も顧客企業の1社だが、グローバル契約に分類される。一見すると物流系企業が多いように見えるが、「2020年11月に(サプライチェーン全体で人工知能〈AI〉による意思決定を行うllama.aiを提供していた)LLamasoftを買収したから」(小関氏)だ。

 日本市場での展開では、前述した国内法規制へ対応するほか、サプライヤーの支援拡充や日本語ドキュメント/サポート体制の準備、現在シンガポールにあるデータセンターの国内ホスティング化などに取り組む。

 今後について、小関氏は「顧客にサービスを提供する準備は整った。グローバルは2020年度比で36%の成長を実現したが、国内市場は小規模なので(数値を)上回るように成長させたい」と述べつつ、人員などの資源強化と自社サービスが国内市場に合致するのか探索しながら国内ビジネスを推進すると述べた。

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