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デジタル岡目八目

中小企業のデジタル化に応えるのは誰か

田中克己

2021-06-15 07:00

 中小企業のデジタル化も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で加速しているようだ。4月23日に発表された2021年版の中小企業白書によると、デジタル化の優先度が「高い」/「やや高い」とする中小企業は、COVID-19流行前は約45%だったのに対し、流行後は約61%と16ポイントも増えている(野村総合研究所調べ)。

 最も重要な課題に「経営判断や業務プロセスの効率化・固定費の削減」を挙げる企業が多いが、業種別にみると、COVID-19が直撃した宿泊業や飲食サービス業などは「新たな事業や製品、サービスの創出」、製造業は「サプライチェーンの最適化や生産プロセスの改善」になる。だが、問題はデジタル化の旗振り役の人材がいないこと。そこで、ITベンダーはデジタル化を支援するソリューションを提案するが、ユーザーの要求に応えるものになっているだろうか。

 グループウェアなどを展開するサイボウズは5月末、新しい販売パートナーとなる地方銀行(地銀)との関係強化を図る方針を発表した。約3年前に開始した協業行は伊予銀行や滋賀銀行など7行だったが、新たに和歌山県や岐阜県、宮崎県などの地銀を加えていく。地域の中小企業とのコネクションが強い地銀がデジタル化の相談相手や相談窓口になることが最適と判断したからだろう。

 営業本部パートナー第3営業部部長の渡辺光氏によると、中小企業のデジタル化が遅れている理由はITコストとITスキルにある。別の言い方をすれば、デジタル化の費用がかかり、しかも複雑すぎて使いこなせる従業員がいないということだろう。「何から手を付けるのか分からない」と困り果てる中小企業の相談相手もいない。地銀をパートナーに取り込む理由だ。それをサイボウズがサポートする。

 具体的には、地銀の専門部隊が中小企業のデジタル化の課題を聞き、解決策を提案したり、教育したり、システムの構築を請け負う企業を紹介したりする。既に200件近いコンサルティングの実績もあるという。地銀にメリットもある。渡辺氏によれば、上場地銀の6割は減益か赤字に転落する厳しい経営状況にある。貸金機会の低下やマイナス金利、新規参入組との競争激化に加えて、仮想通貨などフィンテック対応への投資も求められている地銀にとって、新たな収益源になる。地域経済の活性化にもなる。

 日本マイクロソフト 執行役員コーポレートソリューション事業本部長の三上智子氏も6月初旬、経営層と密な関係にある地銀を新たなパートナーにし、デジタル化に遅れている地方の中小企業を支援する計画を明かした。「Office 365」と「Microsoft Teams」を中核に、中小企業のスタンダードにする狙いがあるという。

 その具体策の1つが地銀をパートナーにすることだ。2つ目は、4月に開設した「ITよろず相談センター」になる。リモートワークなどの相談にのるもので、全国各地の販売店なども対応する。3つ目は、リモートワークなどデジタル化に必要なSaaSの品ぞろえを拡充すること。Azureに対応するSaaSを呼び込んだり、ISVのアプリをSaaS化したりすることを支援する。スタートアップが開発した業種業務特化型のクラウドアプリも取り込む。

 一方、デル・テクノロジーズ 常務執行役員の渡辺義成氏は6月初旬、テレワーク環境を整備する中小企業向けパッケージ製品の発表会で、IT化の相談にのる専任アドバイザーの育成強化に取り組む方針などを説明した。企業各社に1対1で対応する専任アドバイザーと地域別に営業担当者を置き、中小企業にニーズの高いテレワークとセキュリティ、事業継続のソリューションを提供する。

 だが、ITベンダーらの施策は、IT人材や相談相手を探す中小企業に、自社製品やソリューションを解決策として売り込むだけに見える。中小企業が求めることとのギャップもありそうだ。中小企業白書によると、ITベンダーは中小企業が「業務プロセスの改善提案」などを求めると思っているのに対し、中小企業はITベンダーに「保守・運用の能力」などを求めている。

 ギャップの背景には“身の丈IT”がありそうだ。提供する製品やサービスに不必要な無駄な機能がたくさんあり、使用料が高いということだろう。しかも、参考になる大きな導入効果を得た事例もない。「どのように業務プロセスを改革したのか」などが分からないし、それを支援する人材の提供も見えてこない。ITベンダーの中には「相談は無料」とするが、自社製品やサービスの活用以外のことに対応するのか分からない部分もあるように思う。

 半面、成功事例と支援体制を示せれば、中小企業の経営者の決断は速いだろう。例えば、業務プロセスの改善ということではなく、「顧客満足度をデジタル化で高めて、売り上げを伸ばした」などといった生産性向上の事例だ。それに応えられるのは、ベンダーフリーの中小IT企業だろう。それが役割と信じている。

 問題は安価なソリューションやサービスを組み合わせて課題を解決し、収益を確保するビジネスモデルを編み出せるかだ。複数のITベンダーや地銀とも協業し、中小企業のデジタル化をリードする。そんな関係を構築したらどうだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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