海外コメンタリー

オープンソースのメンテナー、多くは十分な対価を得られず--ストレスも

Steven J. Vaughan-Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2021-06-17 06:30

 Linuxカーネルにおけるstable(安定)ブランチのメンテナーであるGreg Kroah-Hartman氏は最近、ミネソタ大学の一部の開発者らが悪意あるパッチを意図的に混入しようとしたという事件をきっかけに、ミネソタ大学の開発者らが提出するLinuxへのパッチすべてをブロックした。このようなパッチの提出はセキュリティの観点から見て極めて悪質であるものの、Kroah-Hartman氏の指摘したところによると、コードのメンテナーらは意図的に悪質なコードを混入しようとする試みを発見し、断罪するという無駄な時間がなかったとしても、「本来の作業を十分過ぎるほど抱えている」という。それは間違いのない事実だ。

 というのも、オープンソースのメンテナーというのは大変な仕事であるためだ。開発者はバグを修正し、新たな機能を生み出し、レビュアーは彼らのコードを検証し、コードはメンテナーのところで止まることになる。メンテナーは以降のオープンソースプロジェクトにおける広範な部分での作業に対して責任を負うのだ。そしてご想像の通り、メンテナーの数よりもレビュアーの数の方が多く、レビュアーの数よりも開発者の数の方が多い。メンテナーはオープンソースプロジェクトというオーケストラの指揮者と言える。バグが開発者によって修正されていない場合、メンテナーが修正することになる。コードがレビューされていない場合、メンテナーがレビューすることになる。そして、Linuxのような巨大なプロジェクトでは、しばしば1週間で数百件にも及ぶコードのパッチをメンテナンスする必要がある

 こういった点を考えると、オープンソースのメンテナーはさぞかし高い報酬を得ていると思うかもしれない。しかし、それについては考え直す必要があるだろう。Kroah-Hartman氏のようなトップメンテナーやLinuxの父であるLinus Torvalds氏は高い報酬を得ているものの、Tideliftの新たな調査によるとオープンソースプロジェクトのメンテナーのうち46%はまったく報酬を得ていないという。そして報酬を得ているメンテナーのうち、オープンソース関連の作業で年間1000ドル(約11万円)を超える報酬を得ているメンテナーはわずかに26%しかいない。これは恐ろしいことだ。

 オープンソースソフトウェアの管理を支援するためのツールを提供しているTideliftが400人弱を対象に実施した同調査によると、メンテナーの半数近くは無償のボランティアだという。ではなぜ無償で働くのだろうか。

 この調査によると、メンテナーが自らの仕事を楽しめている理由のトップ3は以下の通りだ。

  • 「世界にポジティブなインパクトを与える」(71%)
  • 「創造的であり、そして/あるいは挑戦意欲がかき立てられ、楽しめる作業に対するニーズを満足させるため」(63%)
  • 「自らにとって重要なプロジェクトの作業を実施する」(59%)

 これ自体に驚きはない。

 The Linux FoundationOpen Source Security Foundation(OSSF)とLaboratory for Innovation Science at Harvard(LISH)が最近発表した「Report on the 2020 FOSS Contributor Survey」によると、プロジェクトで開発者が作業する理由として最も多かったのは、自らが既に使用しているプログラムに必要な機能を追加する、あるいは修正を加えるというものだった。その後に、学習の喜びと、創造的な作業や楽しめる作業への要求を満たすという喜びが続いている。最後の理由は何かって?報酬を得るというものだ。

 ここで述べておきたい。開発者であるかレビュアーであるかメンテナーであるかにかかわらず、報酬を得るというのは依然として重要だ。ボランティアとしての喜びで生きていくことはできないのだ。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. ビジネスアプリケーション

    生成 AI 「Gemini」活用メリット、職種別・役職別のプロンプトも一挙に紹介

  2. セキュリティ

    まずは“交渉術”を磨くこと!情報セキュリティ担当者の使命を果たすための必須事項とは

  3. セキュリティ

    マンガで分かる「クラウド型WAF」の特徴と仕組み、有効活用するポイントも解説

  4. ビジネスアプリケーション

    急速に進むIT運用におけるAI・生成AIの活用--実態調査から見るユーザー企業の課題と将来展望

  5. クラウドコンピューティング

    Snowflakeを例に徹底解説!迅速&柔軟な企業経営に欠かせない、データ統合基盤活用のポイント

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]