マイクロソフトが小売から消費財製造にもDXを拡大へ

阿久津良和

2021-06-17 06:30

 日本マイクロソフトは6月16日、小売および消費財製造向けビジネスに関する記者説明会を開催した。1990年代から小売のIT活用を主軸に展開しているが、この数年はデジタル変革(DX)プロジェクトの支援に当たり、消費財製造向けにも新たな伴走プログラムを発表している。

 説明会でエンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部長の山根伸行氏は、「2018年のWalmartとの提携を始め多くの企業と提携してきた。われわれは顧客のビジネスを支援する事例や知見を持つが、顧客データを利用せず、顧客事業とも競合しない。あくまでもプラットフォーマーとして国内顧客と共に戦略的事例を作り上げたい」と取り組みの概要を語った。

日本マイクロソフト 流通サービス営業統括本部長の山根伸行氏、同流通業施策担当部長の藤井創一氏、同技術戦略責任者の越田陽一氏(左から)
日本マイクロソフト 流通サービス営業統括本部長の山根伸行氏、同流通業施策担当部長の藤井創一氏、同技術戦略責任者の越田陽一氏(左から)
小売および消費財製造向けのビジネス方針
小売および消費財製造向けのビジネス方針

 同社の小売向け施策は、「顧客理解によるつながりの強化」「従業員の能力強化」「サプライチェーンの高度化」「流通業ビジネスの再創造」の4つの柱からなる「Enabling Intelligent Retail(知的な小売の実現)」を掲げる。その具体的な成果の1つが三越伊勢丹になる。

 2021年から仮想現実(VR)を利用した「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」に取り組む三越伊勢丹は、「新しい消費者がオンラインにもいる」(MD統括部 オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部 計画推進 仮想都市プラットフォーム事業の仲田朝彦氏)との発想から、即座に商品を購入できるECサイトとは異なり、実際の買い物と同じ過程や出会いを重視した「アナログなDX」(仲田氏)をスマートフォンから体験できる仮想世界を構築した。

 顧客は、自分のアバター(分身)で仮想空間に参加し、友人や出会った知人とともに、ECサイトと連動した買い物や街歩きを楽しめる。仮想空間自体はMicrosoft Azureに構築され、現在は新宿駅東口の一部と伊勢丹新宿店を再現。専用コーナーを設け、洋服や髪型、動作といったアバターを個性的にするアイテムの販売も予定している。

三越伊勢丹 MD統括部 オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部 計画推進 仮想都市プラットフォーム事業の仲田朝彦氏
三越伊勢丹 MD統括部 オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部 計画推進 仮想都市プラットフォーム事業の仲田朝彦氏

 またイオンも、DX人材を育成する「SMDXLab」を、2021年からイオングループの正式なDX推進企画として再始動させた。立ち上げ当初の2018年は、スーパーマーケット事業内のデジタル勉強会としてスタートし、2019年から日本マイクロソフトが支援する。2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症の大流行と相まって、対面形式からAzure Base代官山などを利用したウェビナー形式に移行すると、「経営層からアルバイトまで参加する」(イオン SM担当付チームリーダーの北村智宏氏)取り組みに成長した。

イオン SM担当付チームリーダーの北村智宏氏
イオン SM担当付チームリーダーの北村智宏氏

 2020年の当初は100人前後だった参加者も、2021年6月時点で2888人にまで拡大。グループの131社が参加する。具体的な取り組みでは、グループ企業のまいばすけっとが、店内動画データとAzure Cognitive Servicesを組み合わせてパンの販売棚の売れ行きを可視化し、作業計画や発注数に利用した結果、実証実験で売り上げが対前年比118%になった。北村氏は、「日本マイクロソフトの持つネットワークと連携し、各地の研究開発拠点を構築したい」と今後の目標を語った。

 なお、マイクロソフトの小売向けクラウドソリューション「Microsoft Cloud for Retail」に関する更新情報を、米国時間2021年6月21日から開催予定のNRF2021 Retail Convergeで公開するとしている。

「Microsoft Cloud for Retail」の概要
「Microsoft Cloud for Retail」の概要

 方や消費財製造向けには、「ブランド実績の最適化」「俊敏かつ持続可能な製品ライフサイクルを構築するためのオペレーション最適化」「取引先との連携強化」「変革の加速」の4つの柱からなる「Intelligent Consumer Goods(知的な消費財)」を新たに掲げた。具体的な取り組みは、「IT部門の支援にとどまらず、ビジネス部門へのアプローチを含めてマイクロソフトが伴走するプログラム」(エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括 技術戦略責任者の越田陽一氏)という。

 ここでの事例として挙げられた資生堂は、2019年末に策定したデジタルIT戦略や、2021年2月発表の新中期経営計画「WIN2023 and Beyond」を実現するため、業務系データをMicrosoft Azure上のSAP S/4HANAに移行させるなど生産領域の近代化に取り組んできた。日本マイクロソフトは前述したプログラムで資生堂のDX化に伴走しつつ、「研究開発データに加えて消費者データをAzure統合データ基盤に移行し、グローバルの多様な技術支援に努める」(越田氏)としている。

資生堂 執行役員CITOの高野篤典氏
資生堂 執行役員CITOの高野篤典氏

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