アカマイ・テクノロジーズは、4月に同社のエッジコンピューティングインフラの利用促進を図るべく、サーバーレス基盤の「Akamai EdgeWorkers」の提供を発表した。サービス開発を担当するAkamai Technologies インテリジェントエッジ担当シニアバイスプレジデントのLiz Borowsky氏は、「エッジコンピューティングの利用例を広げたい」と話す。
EdgeWorkersでは、同社が世界135カ所に分散配置する34万台以上のサーバーネットワークをベースに、アプリケーション開発者が作成したロジックなどをエンドユーザーに近い場所にある同社のエッジ基盤で実行できるようにする。
Akamai Technologies インテリジェントエッジ担当シニアバイスプレジデントのLiz Borowsky氏
「例えば、ウェブサイトにアクセスするエンドユーザーの位置情報に基づいて、周辺のイベントを案内したり、広告を配信したりするなど、カスタマイズしたコンテンツを提供できるほか、A-Bテストのような形でエンドユーザーごとに最適なデザインやレイアウト表示することにより、ユーザー体験(CX)の検証などが行える。どのようなロジックを実装して実現できるかは開発者のアイデア次第」(Borowsky氏)
Borowsky氏によれば、Akamai EdgeWorkersでは、同社が独自に機能などを提供する以外に、パートナーと連携して具体的なエッジの利用シーンを応じた展開を目指すという。一例では、世界中で進む新型コロナウイルスのワクチン接種を円滑にするために同社がデンマークのQueue-itと開発した「Akamai Vaccine Edge(ワクチンエッジ)」がある。
ワクチンエッジでは、ワクチン接種希望者の予約サイトへのアクセス集中によるサービスの影響に備え、アクセス状況に応じてエッジ側に用意した「仮想待合室」にユーザーを誘導する。予約処理の状況に応じて仮想待合室にいるユーザーのリクエストを近隣のエッジサーバーで対応したり、ユーザーの近隣にある接種会場のリストを優先表示して予約を取りやすくしたりしている。また、DDoS(分散型サービス妨害)攻撃などの脅威へのセキュリティ対策も同時に行う。
Borowsky氏は、「Akamaiは約20年にわたってエッジのインフラを顧客に提供しており、そのノウハウを広く提供したい」と述べる。EdgeWorkersとしての実際のユースケースは今後拡充していく見込みだが、プライバシーが重視されるデジタルマーケティング分野でのCookieを規制する動きや、あるいはIoT家電を活用したデジタルライフ分野の新サービスなど、エッジ側で高度な処理を必要とするニーズの兆候が出ている。
「例えば、コネクテッドデバイスでは、メーカーがファームウェア配信などをAPI経由で行っているが、より動的な処理を行うとすれば、オリジンサーバーへアクセスが集中するため、エッジにどうオフロードするかが課題になる。Cookieについても同様に、規制強化の流れでオリジンサーバーによる処理が増えており、センターサーバー側のロジックをどうエッジに展開するかが焦点になっている」(ウェブパフォーマンス・アーキテクトの伊東英輝氏)
Borowsky氏によれば、今後の機能開発では、分散エッジ環境のキーバリューストア(KVS)型データベースサービス「EdgeKV」やメッセージング処理などの提供を予定する。これまではデータの保持が一時的だったが、EdgeKVでは恒久的に可能になり、開発者がエッジを利用してエンドユーザーに即した高度なサービスを開発していけるとする。
パートナーソリューションについても、「アプリケーションストアのような場で開発者がパートナーソリューションを柔軟に選び、エッジを生かしたサービスを容易に実現できるようにしたい」(Borowsky氏)という。