ポイントは教育--目指すのは現場が自律した業務デジタル改革の継続
B社では、システム開発を2種類に分けた。一つは情報システム部主体のシステムエンジニアによる、開発体制をしっかり設けたウォーターフォール型開発。もう一つは、SmartDBを使って業務を知る人間が自らアジャイル型でトライ&エラーしながらの開発だ。
とにかく現場業務で利用するSmartDBを無理にカスタマイズなどせず、もともとの標準機能を使い倒す。使い倒してもらうためには、業務のデジタル化を推進する担当者=「業務デザイナー」をサポートする仕組みや教育制度が欠かせない。
この十数年の間、B社の情報システム部は現場でSmartDBを使い倒すための教育施策を常にアップデートしている。
- 業務デザイナーが困ったらいつでもチャットで相談できるヘルプデスクの設置
- アプリケーションをゼロから作るのは時間がかかるため、テンプレートを充実
- 定期的な講習会の開催=現在はオンラインでできるようになったので受講者倍増
- 業務デザイナー任命制度=1部署に最低1人の業務デザイナー、異動の際は後任を指名
- 普通のマニュアルではユーザーに読んでもらえないので、動画や漫画で親しみやすいものを作成
- 社内業務デザイナーにメルマガを配信=初級、中級、上級に分け、レベルにあった内容を配信
- 全社の情報共有ポータルで社内広報活動=新しい講習会などのお知らせで広く興味を持ってもらう
さまざまなアイデアで現場の自律的な業務デジタル改革を促していることが分かる。これら教育施策のおかげで社内の業務デザイナーは200人ほどに増えている。
ノーコードツールには、「失敗コストが低い」という利点もある。
現場部門がトライ&エラーで失敗しながら改善してより良いものにたどり着くというプロセスは、デジタル化の領域以外でも育める感覚だと表現できる。
個別最適は許さない--サポートだけでなく管理、統制も重要な任務
ノーコードツールを用いて現場が自律的に業務をデジタル化すると聞いて、ITに詳しい方なら真っ先に心配になるのが「個別最適」「システム乱立」の問題だ。
情シス部門が把握していないところで現場が勝手にツールを入れてしまうシャドーIT。情シスが管理していないためセキュリティも甘く、情報が漏洩してしまうなどの恐ろしいリスクも潜んでいる。
B社の情シス部門は、現場にデジタル化を任せる際は「IT統制がキモになる」と、あらかじめその辺りも設計していた。
全社の業務アプリケーションは全てデータベースによって“見える化”している。さらに、業務部門への「課金制度」を採用し各部門の予算でシステム化している。闇雲にシステム化せず、費用対効果を意識するようになる。アプリケーションが乱立しないように制御する一つの策である。
また、時代の流れによって業務は変わるものである。いつしか使われなくなったアプリケーションも出てくるだろう。1年に1回、アクセス状況を確認して不要なアプリケーションは断捨離するという定期的な棚卸しも欠かさない。全体最適を意識してしっかりと管理しているからこそ、現場もよく考えて本当に必要なものを作るようになる。一度作ったらとことん使い倒す。
ノーコードツールを「導入」しただけで満足してはいけない
前回のヨネックスと今回のB社。実際にノーコードツールでデジタル化を進めている企業の事例を紹介したが、両者に共通する成功ポイントがある。
1つ目は教育。導入時の立ち上げはもちろんだが、継続して使い倒すためには、しっかりと社内で体制を整え、教育に取り組むことが大事である。
そして、2つ目のポイントは管理と統制。管理する情報システム部門が、全体最適を意識して管理、統制することを心がけるべきだ。
認識しなければならないのは「ノーコードツールを導入すれば簡単に素晴らしい世界が広がるわけではない」ということだ。
これらのポイントを抑えて日々運用を続けていくと、社員のITリテラシーが高まり、全社におけるデジタル化のスピードが加速することを実感できるだろう。
次回は最終回として、ノーコードが切り拓く「デジタルの民主化」について考察し、ノーコードの世界へどう向き合うかについてお伝えする。
(第5回は7月上旬にて掲載予定)

- 石田 健亮(いしだ けんすけ)
- ドリーム・アーツ 取締役執行役員 CTO
- 1998年、東京大学工学部機械情報工学科卒。東京大学大学院在学中の2000年4月にドリーム・アーツに入社。製品開発部長を経て、新規事業推進室にて現在3万9000店舗以上に利用されている「Shopらん」の企画開発を手がける。2015年1月、最高技術責任者に就任。「ものづくりの力」を強化すべくエンジニアの育成にも注力している。