デジタル岡目八目

AIドリブンへの転換を支援するdotDataの次の一手

田中克己

2021-07-05 07:00

 データサイエンスのプロセスを自動化するソフトウェアを展開する米dotDataが新たなフェーズに入ったようだ。NECからカーブアウトした同社は、ベンチャーキャピタルや投資会社などの出資を受け、今ではNECの出資比率は50%未満になる。従業員も約100人に増え、製品開発やパートナーとの協業を強化するなど事業化のスピードを上げる。

 最高経営責任者(CEO)の藤巻遼平氏は「順調に成長している」と語り、ビッグデータからビジネスに活用する知見を引き出すデータサイエンティストの育成・獲得を支援するソフトウェアとして期待の高まりを感じている。

 2018年4月に開催されたdotData設立の記者会見で、藤巻氏は「誰もがデータを分析し、より良いサービスやプロダクトを生み出すことのできる世の中を作る」と語り、データサイエンスの民主化を実現する製品の開発に取り組むと意気込みを見せた。具体的には「データを可視化するBI(ビジネスインテリジェンス)ツールは、過去に起きたことをビジュアル化するのに対して、dotDataは過去の事象を機械に学ばせて、将来の動きを予測するもの」になる。別の言い方をすれば、AI(人工知能)ドリブンな企業になることを支援すること。

 藤巻氏は2006年にNECに入社し、データサイエンス研究所 主席研究員としてデータ分析自動化の技術開発に携わってきた。NECはそれらのコア技術を外に出し、外部から出資や人材を受け入れることで成長を狙った。藤巻氏は当時、データ分析に関する3つの課題を挙げた。1つ目は分析作業が一種の職人芸になっていること。2つ目はデータ分析に時間がかかること。3つ目はAIの判断基準がブラックボックス化していること。つまり、AIがなぜそう判断したのか理由が分からないという問題だ。

dotData 最高経営責任者(CEO)の藤巻遼平氏
dotData 最高経営責任者(CEO)の藤巻遼平氏

 2018年第3四半期には、そうした課題を解決するため、AIを活用して予測分析プロセス全体を自動化するソフトウェア「dotData」をリリース。その後はメジャーアップデートや機能拡充を図っている。2020年にはクラウド版「dotData Cloud」、2021年5月にはコンテナー化した「dotData Py Lite」を投入する。dotData Py LiteはAPI連携しやすくするようAIのパーツとして軽量化したもの。2021年6月には大塚商会やNECと、中堅中小企業の各種経営指標を分析するサービスを共同開発したと発表している。

 AIを活用したい企業は日米とも増加しているが、ハードルのさらなる低下が求められている。そのためにはユースケース作りが欠かせない。データサイエンティストがいないなど、AI活用を始めたばかりのユーザーが知識やノウハウを蓄積し、着実にステップを踏めるよう支援するためでもある。日本では、三井住友銀行などで実証実験が進められている。2020年11月にdotData Cloudを日本で販売開始したNECは1年間で100社のユーザーを獲得すると発表した。

 米国にはデータサイエンティストを100~200人も抱えるAI活用の先進企業がある。極端に言えば、彼らは毎日、Pythonなどを駆使して流れ作業のようにAIモデルを作り上げている。dotDataは、そんなデータサイエンティストらの求める機能強化も図っている。

 一方、データサイエンティストが社内に1人もおらず、投資余力のない中堅中小企業もAIを使って業務の自動化や効率化に取り組みたいはずだ。そんなユーザーに対しても、dotDataを活用した予測分析サービスを提供できるようにする。そして、データサイエンティストを2、3人採用し、より高度な予測を実現させる。そんな仕組み作りも支援する。

 その一環として、北米ではパートナーとの連携強化を進めている。まずは他社のデータ分析ツールとの連動を可能にする。藤巻氏によれば、北米市場は数多くのデータ分析ツールがあり、データが自由に行ったり来たりできるようにすれば、他社製ツールの販売店がdotDataを扱ってくれるようになる。dotDataで作成したモデルを、他社製ツールで可視化するなどといったエコシステムも大事になるという。

 藤巻氏は「アーリーステージ(初期段階)が終わり、グロスステージ(成長段階)に入っている」とし、2018年4月の会見に掲げた「2024年に企業価値500億円」の目標に進む。従業員数も約100人に達し、本社を置く米シリコンバレーに40人弱、日本に20人弱、ポーランドに開発チームなど約40人を配置する。シリコンバレーにおける人材争奪戦が激しさを増していることもあり、グローバルで優秀な人材を採用していくことがますます重要になる。新たな資金調達でどんな策を打ち出すのか注目したい。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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