Microsoftの法務顧問が見せた規制へのリスペクト--プライバシーやコロナ禍を語る

末岡洋子

2021-07-09 06:00

 Microsoftと欧州連合(EU)といえば、2000年代にEU競争法(独占禁止法)訴訟で約10年にわたり法廷で戦ってきたことを思い出す。その際にMicrosoftの法務顧問として最前線に立っていたのがBrad Smith氏だ。Smith氏が6月中旬、パリで開催された「VivaTechnology 2021」に登場し、欧州に対する見解を語った。

 この戦いは、MicrosoftによるWindows Media PlayerやInternet ExplorerのWindows OSとの抱き合わせが独占禁止法に違反しているという、競合の申し立てにより始まった欧州委員会の独占禁止法訴訟だ。当時、Microsoftが自社の立場を説明する際、必ずと言っていいほどSmith氏の姿があった。EUとの一連の訴訟は2009年に終止符を打ち、Smith氏には6年前から「プレジデント」の肩書きが加わっている。

Microsoft プレジデントのBrad Smith氏
Microsoft プレジデントのBrad Smith氏

 Microsoftに勤務して30年近くになるというSmith氏にとって、パリは特別な場所だ。「Microsoft社員として最初の勤務地がパリだった。娘もここで生まれた」とSmith氏。欧州の社会と文化を経験した上でのEUとの戦いだったことが分かる。

 法務顧問という職については、「技術と社会の交わるところ――ここに企業、顧客、市民や消費者、政府、法律がある。重要で、そして面白い部分」と醍醐味を語った。「今日のデジタル技術やデータは、これまでの世界を変えるような偏在的なインパクトを与える。だからこそ、製品や技術を構築する時に政府の規制は不可避であり、重要であり、必要だ」と規制への“リスペクト”を見せた。

 現在、EUが競争法の観点で厳しい目を向けているのは、Google、Amazon、Facebook、Appleなどの「GAFA」となる。Microsoftを加えて「GAFAM」と言われることもあるが、Microsoftは、(Slack Technologiesが「Microsoft Teams」のOffice 365バンドルについて行った申し立てがあるが)一時期の難を過ぎたように見える。そして、現在の主戦場はプライバシーになりつつある。

 その余裕からか、Smith氏は、「われわれハイテク業界は一歩下がって、より広い視野で物事を見るべきだ」と述べる。「『競争』対『プライバシーとセキュリティ』という構図で議論するべきではない。競争をどのように進めるべきか、プライバシーとセキュリティをどのように進めるべきか、と考えるべきだ」とSmith氏。ここで政府も企業も、ともに重要な役割があると続ける。

 「複雑な問題だが、量子コンピューターを作るより簡単だ。量子コンピューターを構築できる業界など、10年先んじている業界であれば、複雑さというチャレンジを受け入れて挑むべきだ。どのようにして政府と協調的に作業し、人々の信頼を勝ち取るのに十分な規制を作るか、そして、その中で事業を展開するか、これらは全て到達可能な目標だ」

 Smith氏は、欧州と米国では、政府のプライバシーに関する考え方に違いがあることを認めながら、「欧州と米国は、プライバシーをどのように保護するかで歩み寄るべきだ。欧州はモデルを設定した。米国はこのモデルから学ばなければならない」とも述べる。

 そして、Microsoftが欧州の法をリスペクトしている最新の例として、「EU Data Boundry」を紹介した。Azure、Microsoft 365、Dynamics 365などのクラウドサービスを対象としたもので、欧州域内で収集したデータを欧州域内で保存、処理する。フランスでは、さらにCapgeminiおよびOrangeと「Project Bleu」として、政府向けに信頼性のあるクラウド実現を目指している。「フランス政府の要件を満たすデータセンターだ。AI(人工知能)サービス、クラウドサービスを欧州の顧客に届ける。データは顧客がコントロールする」と、Smith氏は約束する。

 このような取り組みを説明しながら同氏は、「サービスを提供するわれわれが適応しなければならない。欧州に変わるよう説得することではない」と柔軟性を強調した。

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