山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国でのソニー炎上騒動に見る正しい対処方法

山谷剛史

2021-07-20 07:00

 ソニーの中国法人は6月30日、現地時間7月7日22時に世界に向けてカメラの新製品を発表すると予告したが、そのことが中国のミニブログ「微博(Weibo)」を中心に批判が上がった。「7月7日22時」というのは、かつて盧溝橋事件(1937年)が勃発した日時であり、このタイミングで日本に関する明るい話題を中国で発表するのは政治的にタブーとなっている。ソニー中国は翌日の7月1日に謝罪文を出し、予定していた発表を延期した。

 こうした衝突は初めてではない。中国では、日本との歴史的な背景を巡って、しばしばこうしたことが起きている。他にも、中国現地法人のウェブサイトが本国のウェブサイトと比べて貧相だという理由でやり玉に挙げられたり、同じ製品なのに中国の方が価格が高いということで叩かれたりもした。もっとも、後者のケースは税金などの要素もあるだろう。

 ソニーといえば、スマートフォンが普及する前の中国では、大都市に住む裕福な青少年の間で携帯ゲーム機「PlayStation Portable(PSP)」がブームになったことがある。ビデオゲームを遊ぶだけでなく、ポータブルメディアプレーヤーとしても人気を博していた。PSPを持っていることが一種のステータスとなり、上海の地下鉄に乗るとPSPを利用する乗客が車内に数人はいたと記憶している。「PlayStation」は今でも人気で、一部のゲームファンは新型機を購入している。

 電化製品をはじめとして中国の国産ブランドが台頭する中、ソニー製のカメラやオーディオ機器、スマートフォンを購入するファン層が少ないながらも一定数存在している。「索尼大法好(ソニーの教えは素晴らしい)」という合言葉を旗印に、ソニーファンは集っている。中国のファンが集うSNSのコミュニティーでは、今回の事件でも騒ぐことなく、淡々とソニー製品について語っていた。2005年と2012年の反日デモで、反日運動に熱心な人々とそうでない人々の温度差が大きくあったが、そんな感じだ。

 さて今回の炎上事件だが、その規模はとても小さい。Googleが使えない中国において、検索数の傾向がざっくり分かる百度指数で「ソニー」をキーワードに検索してみると、炎上から2日後に検索の最大値を迎え、わずか4日で興味が元通りになっていた。つまり6月30日の発表から、7月7日を待たず事態は収束したのである。中国における近年の炎上事件では、話題になってもこの程度で収まる。

 特大の炎上事件といえば、例えば新疆ウイグル自治区から綿の調達を止めるとH&Mをはじめめ、世界のアパレル各社が動いたときだ。このときは中国メディアが口をそろえてその方針に反する抗議の記事を掲載したこともあり、今回の問題とは比較にならないほどの検索数を記録した。EC(電子商取引)サイトからもH&Mなどの商品が姿を消した。

 Dolce & Gabbanaも2018年に大炎上した。既に報じられているので簡単に紹介すると、中国人の女性モデルが箸を使ってピザをがさつな手付きで食べようとする動画を公開し、これが「中国人を馬鹿にしている」と物議をかもした。さらに、デザイナーのStefano Gabbana氏が中国を侮辱する内容のメッセージが公開され、さらに中国人の怒りを買った。同社は微博で謝罪文を発表するものの、アカウントがハッキングされたもので本意ではないと釈明し、Gabbana氏も動画で謝罪した。Dolce & Gabbanaの商品もまた中国のECサイトから姿を消した(こちらの方が事例としては先)。

 これらの先例と比較すると、ソニーの炎上騒動は検索傾向も正常に戻り、同社関連のSNSフォーラムでしつこく問題を蒸し返すネットユーザーを見ることもなくなった。ソニーの中国での「すぐに謝罪して対応をとる」という反応は無難であったようだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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