SIerより先に契約書作成を自動化--3種の神器でデジタル化し続ける税理士事務所の挑戦 - (page 2)

石田仁志 藤代格 (編集部)

2021-07-26 07:15

ベンダーより早く契約書自動作成システムを開発

 これによって実現したのが、契約書作成業務の自動化である。元々別のクラウドサービスなどを活用して契約業務自体はデジタル化されていて、作業自体にかかっていた時間はわずか15分だったが、それでも「契約業務は税理士が担当するので、一番工数単価が高い。また、送付を後回しにしてしまうことがあり、問題と感じていた」と智原氏は振り返る。

 そこで智原氏は、自社開発したkintoneの契約履歴アプリとDropbox、電子署名サービスの「Dropbox HelloSign」をZapierでAPI連携し、わずか30秒で契約書作成業務が可能になるフローを開発した。

 「お客様と面談をして契約に至った時に、その場で話しながら契約書を送れる。簡単にできるので、社員の契約に対する意識も変わってきた」(智原氏)

 余談ではあるが、契約書自動化システムを構築した後に、HelloSignを紹介されたSI会社にkintoneとHelloSignを連携させるモジュールを提案されたが、逆に智原氏が完成したシステムのデモを見せ、驚かれたという。

契約履歴管理アプリ(出典:エンジョイント税理士法人) 契約履歴管理アプリ(出典:エンジョイント税理士法人)
※クリックすると拡大画像が見られます

独りよがりの開発にならないような工夫も

 このように同法人では、税理士事務所業務のデジタル化が着々と進行中である。智原氏のkintone開発スキルが上がり、さまざまなクラウドツールを活用してきたが、「今はkintoneとDropboxに集約されつつある」とのこと。とはいえ、同法人においてデジタルに関する深い知見を備えているのは智原氏のみである。そこで業務アプリを開発する際には、開発者または経営者による押し付けにならないように配慮しているという。

 「まず従業員がアプリを使うメリット、何のために使うのかをしっかり説明した上で、設計段階で使わざるを得ないような業務フローにすることが大事。情報入力や担当者への依頼時にシステムを経由しないと業務の流れに乗れないようにするなど、仕組みで使ってもらえるように工夫しています」(智原氏)

 このほかにも、新しい業務アプリを開発する際には従業員に余計な仕事を増やさないようにすることも重要と智原氏は語る。例えば従業員の工数管理アプリを開発した際には、kintone上で業務アプリを組むことで、「いつも通りに日報を付けるだけで自動的に作業履歴や工数を集計できる」ようにしている。

業界と顧問先のデジタル活用支援も視野に

 同法人ではデジタル化が加速しているが、他方で業界全体を見渡すと税理士事務所のデジタル化は進んでいない状況である。そこで智原氏は親交のある伊藤会計事務所と、今後のコミュニティー展開を視野に入れた「ハロークラウド」というデジタル活用を啓蒙するアライアンス活動を展開している。両事務所で活用しているアプリを組み合わせ、税理士事務所向けkintoneアプリも開発。コロナ禍による意識の変化もあり、2020年末に開催したセミナーには120事務所が参加したという。

 税理士事務所のデジタル活用が進むと、その先に見えるのが顧問先である中小企業のデジタル活用である。多くの税理士事務所がデジタルの知見を提供できるようになれば、高齢化が進みIT担当者がいない中小零細企業のデジタル化の面倒を見ることができるようになり、国内企業全体のデジタル活用支援という枠組みができることも期待できる。現在エンジョイントでは顧問先のバックオフィスの効率化支援にとどまっているが、「リソースが整えば更なる業務のデジタル化の支援もしていきたい」(智原氏)としている。

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